さつまいもは近所の八百屋で買ってきたもの。気のいい店主のおじさんが、裏から特別だと出してきてくれたそれは色からして美味しそうで。これから全て裏ごししなければいけない手間を考えると大変だけれども、それ以上に美味しいものを食べて欲しいから俄然やる気も出てくるのだ。 家に帰って厚めに皮を剥き水にさらし、沸かしていたたっぷりのお湯とクチナシを入れてさつまいもを茹でる。茹で上がった大量のさつまいもを必死に裏ごししていたら、もう一人の住人が帰宅してきた。 「……大丈夫?」 「少し、手伝ってくれると助かります……」 帰ってきた佳主馬は鍋にまだ裏ごしされていない大量のさつまいもを見止めると、健二の手から木じゃくしとボウルを受け取った。時折交代しつつ、たくさんの芋を丁寧に裏ごししていくとボウルの中には綺麗な黄色のさつまいも。 それをまた鍋に移すと、栗の甘露煮の瓶を取り出す。甘露煮のシロップに砂糖とみりん、少しの塩を加えて鍋にかけたさつまいもへ入れるとゆっくりとろ火で練っていく。暫くして味を見て、今度はテリを出すために水あめを少々。甘いさつまいもの匂いが部屋に漂う。 「……うちの味?」 「うん。聖美さんと万理子さんにOZで教わったんだ。……上手く出来るといいな」 「出来るよ。健二さんが一生懸命作ってるんだから」 「……ありがとう」 鍋の底が見えてくるくらいに練り上げたら火を止めて、栗を入れてまた少し練ってからバットに移して冷ます。味をみて大丈夫、と二人で確認する頃には時計の針は大分進んでいた。出来上がった栗きんとんを慌ててタッパーに詰めると家を出る。日付が変わる前には、着かなくては。 タッパーは二人で分けて持っていく。佳主馬は健二よりも大分多めで、それでも全く揺らぐ様子の無い彼に、健二はくすりと小さな笑みを浮かべた。 「どうしたの、健二さん」 「なんでもないよ」 「そう?」 「うん。……かっこいいなぁって」 「え、」 薄暗い夜の道の中でも、ほんの少し佳主馬の頬が赤く染まったのが健二には解る。それが可愛く見えて、健二は笑みを深めた。そんな恋人に佳主馬は眉を潜めて、しかし直ぐに思い直したように顔を近付ける。 「……健二さんは、すっごく可愛いよ」 「ふぇ!?」 途端、不意打ちのあまりボンッと音をたてて赤くなった健二に佳主馬は会心の笑みを浮かべた。それを恨めしげに見上げた健二はマフラーに顔の半分を埋める。 「……可愛く、ないよ」 「可愛いよ」 二人の間でふらふらと揺れていた手が、佳主馬から伸ばされた手でそっと繋がれる。 ぎゅっと握り返す指の強さは柔らかくも必死で。雪が降りそうな寒さなんて気にかからないくらい暖かい。 目的地は、もう目の前に。 目的地につき、家の中に入るとコートを脱いで持ってきた金色の栗きんとんが入ったタッパーを渡した。そしてソファやこたつ、その他ラグやらに座って皆が時計やテレビを見やる中で空いていたソファに座る。 テレビの画面は銀河の妖精と超時空シンデレラのカウントダウンライブの真っ最中だ。中央のステージに二人が走っていき、背中合わせに片腕を掲げる。立てられた指は三本。 『2.Are you ready?』 『1.覚悟はどう?』 二人寄り添って手を繋ぐ。指を絡めて強く強く握り合って、ふと目が合った瞬間に笑いあった。 『『0.愛、鳴らして!』』 |