「ねー知ってた多串くん? たばこの煙って、喫煙してる人よりも周りにいる人のほうに有害なんだってー」
「…………」



昇る白煙は、まるで



「ニコチンもタールも三倍以上、一酸化炭素なんて五倍なんだってよー? ……ってことは多串くんのそばにいる人は、多串くんよりも煙で健康損なってるわけだよね。わー大変大変」
「…………」
「一酸化炭素は血管がつまるんだっけな……がんとかになる確率も高くて――――」
「何が言いたい」
「多串くんの大大だぁーい好きな可愛い銀さんのために、禁煙する気はないの?」
「無い」
 間を置かずに返せばどこか不満そうに眉が寄った。それを横目で見ながら煙草を口から離し、煙を吐き出す。
 ゆらゆらと昇る煙を恨めしげにみやる相手にため息をついた。
「……いきなりどうした」
「多串くんはさー、銀さんがそのうちに煙草のせいでがんとかその他の病気諸々になっちゃってもいいわけェ?」
「煙草云々よりテメェは糖分の過剰摂取をどうにかしやがれ」
「それはほら、俺から甘いものをとったらなんにもならないし」
「テメェが煙草なんかで病気になるタマかよ」
 あれだけの死線をくぐり抜けているというのに、簡単に病気になぞなるものか。ましてや、殺そうたって死ななそうなやつだというのに。
 そう言えばますます拗ねた顔つきになる。
「なーに? 多串くんは俺が大切じゃないの?」
「それとこれとは話が別だろ」
「別じゃないし! 煙草ってほら、体に悪いし、止めたら?」
「今までンなこと言ったこと無かったろうが」
「ええと……俺もやっぱりそろそろ年だし? 健康を考えようかな、って……」
 視線を明後日に飛ばし、どこかどもりながら語る相手に――なんとなく感づいた。
「……幾ら賭けてんだ」
「へッ!?」
 ぎょっとした様子で目を剥いた銀時に、呆れてため息をつく。……そんなことだろうと思ったのだ。
 以前「キスする時に苦いのは嫌だ」と言って禁煙を迫られたが、結局それもうやむやとなった。それから長らく何も言ってこなかったというのに、今更話を蒸し返すほうがおかしい。
 こんな馬鹿馬鹿しい賭けを思いつくのは大方沖田辺りだろう。まったく――本当に、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
「どっちに賭けたんだ」
「……止めないほう。一応」
「止めるほうじゃねぇのか」
「多串くんが煙草止められるなんて思えねぇし」
 あっさりと、先ほどまで言っていた自分が大事じゃないのか、等の台詞を全否定してみせる。
 ここまであっさりされると癪だが、その通りだから返す言葉もない。けれど。
「……オイ」
「なーにー?」
「お前が死ぬまで、やめねぇよ」
「……は」
「だから、」


 看取ってやるから、安心しろ。


「……土方」
「本数考えりゃ俺の方が先かもしれねェけどな。……お前より先には、なんねーだろ」
「…………」
 ぽすん、と背中に重みがかかる。額が背中に押し付けられ、ふわふわの髪が首を撫でてくすぐったい。
 ほんの少し伝わる震えに、知らないフリを、した。

「……マヨネーズの摂りすぎもマズイんじゃねぇの?」
「あれが普通だろうが」
「味覚障害者め……」
「テメェだって大して変わらねぇだろ」
「銀さんはいいんですー。味覚ぶっ壊れてはいねぇもん」
「ああ言えばこういう……」
「どっちが」

 ゆらゆらと細い煙が室内に漂う。
 まるで――――線香のようにも思えるそれから、目を逸らした。



“けぶる煙に、未来を見ようと”