「ほら」
 ポスッ
「…………え」

 ボーンボーンボーン……

「んじゃオヤスミ」
「ええええええええちょちょちょちょっと待って新一これ何!!」
「あーもううっせぇな、ちゃんと14日以内には渡しただろ」
「そうじゃなくって!! これ、これ……」
 渡された包みはかなり素っ気無かった。何のラッピングもされていないただの白い箱。だけれどもその中から漂うのは甘い香りで。快斗の推測が正しければこれはバレンタインチョコだ。

 本日14日、朝も早くから続々と運び込まれるダンボール箱いっぱいのチョコレートやプレゼントに工藤邸は大忙しだった。優作や有希子宛てのものすらかなりの量だというのに今年はこれに快斗宛のものまで加わったのだから新一の眉間の皺が増えたのは言うまでもない。隣から手伝いにやってきた哀や博士、それに危険物係ということで高木、佐藤刑事達もやってきてくれて、どうにか夕飯までに仕分けが済み、遅い夕飯を振る舞い皆が帰っていったのはもう夜も更けた頃だった。
 新一へのバレンタインチョコレートはビターのガトーショコラにした。新一は美味しいと言って食べてくれて快斗はそれに満足していたし、まさか貰えるとは思っていなかったのだ。それが日付が変わる直前になって渡されるとは。
「……開けてもいい?」
「ん」
 ぷい、とそっぽを向いてソファに座り本をとる新一を横目に快斗はそっと箱の蓋を開けた。中にはアイボリーの紙パッキンが詰まっていてその上に丸いトリュフが数個鎮座していた。少し形が不揃いながらもそれは手作りの愛嬌というやつだろう。というか手作りだ。一体いつのまに何処で作っていたのだろう。
「新ちゃん、これ何処で作ったのさ……」
「歩ん家」
 ああ、と納得する。確かにこっそり作るのならば最適な場所だろう。何といってもプロ級のシェフもいることだし。それよりも今は目の前のチョコレートなのだけれども。
 いそいそと新一の横に座ると隣の気配が揺らいだ。視線は本から離れないもののこちらの様子を伺っているのは丸解りだ。そんな愛しい彼女に快斗は笑みを浮かべつつ、トリュフをひとつ口へと運んだ。
 とろりと口の中に甘いチョコレートが広がる。恐らく甘いものが好きな快斗のために選ばれたミルクチョコ。ふわりと口の中で溶けるそれに快斗は幸せそうにため息をついた。
「美味しい……」
「ほんとか?」
 思わず零れた一言に新一がパッとこちらを見やった。しかし直ぐにあ、と言って慌てて顔を本に戻そうとする。その体を引き寄せてすっぽりと腕の中に抱え込んだ。
「すっごく美味しいよ。ありがとう新一v」
「べ、別についでだからな! 灰原とか、博士とかにもやったし……」
「うん、そんなの口実で俺のためにわざわざ歩ちゃんのとこまで行って作ってきてくれたんだよね?」
「なっ!!」
 ニッコリ微笑みながら言ってみせれば腕の中の顔が真っ赤に染まった。どうやら図星らしい。
 ああもうなんでこんなに可愛いんだろう!!
 あまりの可愛さに叫びだしたくなりながら、その代わりに新一をぎゅっと抱きしめた。新一は唸りながら顔を隠すように快斗の胸へと埋める。そんな仕草にもまたデレデレして、快斗はつむじに口付けを落とす。
「……本当にありがとう。ホワイトデー、楽しみにしててね?」

 そういって笑うと、快斗はそっと新一の顔を上げさせ柔らかな唇に口付けたのだった。











「……ん、は……っ、ちょ、まてっ快斗!」
「えー、何?(このまま雪崩れ込もうと思ったのにー)」
「えーと……(ごそごそ)あ、これ。皆から」
「ああ、アレンとエドと昌ちゃんとリョマちゃんと……歩ちゃんから、も?」
「おう」
「……なんか異様に大きいんだけど」
「甘いモンは好きだろ?」
「いや、そうじゃなくて……なんかこう、嫌なオーラを感じるというか……」
「ああそうだ、歩から伝言。『残したらただじゃおきませんよ』だって」
「………………」
「……とりあえず開けてみれば?」
「…………うん」

パカッ

「ぎゃああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!」

「おー超リアル……歩上手いなー」
「そそそそそそそそそそそそそそれっっ!!!!」
「何だろうな。鯛かこれ? 鱗まで彫ってあるし、一体どうやって作ったんだか」
「食べれるわけないじゃんよー!!」
「でも伝言……」
「うううううううう歩ちゃんのばかぁぁぁぁ!!!!」







「……そう簡単に良い目見させるわけないだろう」
「歩?」
「こっちの話だ。それより冷めるぞ」
「あ、いっただきまーす」