「ただいまー!」
「ん? ……お帰り。上手くいったのか?」
「うん。無事に浅月先輩は送れたよ」
「そうか。……と、いうわけで一人寂しく待っているやつがいるから行ってやれ」
「え? あ、そっか」
 廊下をパタパタと駆けていく昌浩の後姿を見送って勾陳は微笑する。
 『遅くなる』と連絡があってからずっと騰蛇は昌浩の部屋に引きこもったままだ。清明や吉昌には朝渡していたはずだからきっと最後なのだろう。
 ……に、してもまぁ本当にカワイクなったもので。
 くすくすと同胞の姿を思い出しながら、勾陳は居間へと戻ったのだった。




「もっくん!!」
「おーお帰り昌浩や」
「ごめんね、待っててくれたんだよね」
「いや別に」
 鞄を机の上に置き、昌浩はベッドの上に丸まっていた物の怪の背を撫でた。ぽんぽん、とその背を叩き伺うように見やると物の怪は心得たように直ぐに紅蓮へと変わる。昌浩は満面の笑みを浮かべてその体躯に抱きついた。嬉しそうな昌浩に紅蓮も自然に顔をが綻び、そっと優しく抱きかかえ直す。
「はい、これ。今年はブラウニーにしてみたんだ」
「毎年ありがとな」
「ううん。……今年は、その、ちょっと違うし……」
 仄かに顔を赤らめる昌浩に紅蓮は少し笑う。確かに今までもずっと貰っていたけれど、それは皆と同じのもので。“特別”なプレゼントはこれが初めてなのだ。
 照れる昌浩にくすくすと笑いながら紅蓮はそっと後頭部に口付けを落とす。その感触がくすぐったかったのか昌浩も笑うと、体を反転させて彼の顔を見上げた。
「来年も、渡すから」
「もう来年の話か?」
「来年も、再来年もその先も。ずっと、ずっとだよ」


 数百年の別離を経て、今また彼と共にいられることを嬉しく思う。
 今度はあんな風に置いて行かないと決めたのだ。今もまだこの魂に宿る力は制御しきれているわけではないし、問題は山積みなのだけれど今度こそ独りで置いて行ったりしない。過去の自分が出来なかったことを、今度こそやり遂げてみせる。昌浩はそう誓ったのだから。


 巡る季節、続く日々。
 未来へと歩んでいく。
 その時はいつでも貴方の傍に。


「大好きだよ。ハッピーバレンタイン、紅蓮!」


 嬉しそうに微笑むと、昌浩はそっと紅蓮へと口付けを送ったのだった。














「……ラブラブだな」
「ほんっとヤキモキさせられたわよねー!」
「騰蛇も大変だな、据え膳だろうアレは」
「本人同士が結構幸せそうだからいいんじゃない?」
「まぁな」
「というかこれはでばがめとかいうやつでは……」
「細かいことは気にしないのよ玄武!」
「アレよりはマシだろう」

「紅蓮……! 可愛い可愛い昌浩に、それ以上手を出したらただじゃおかんぞ……!!」
「…………いい加減孫離れしたらどうだ清明」
「何を言うか青龍! わしの目が黒いうちはこの家での男女不純交遊は認めん!」
「朱雀と天一はどうする」
「あれはいいんじゃ」
「…………」