「うぅぅぅぅぅ……キーラー……」
 自室の机に突っ伏しながら、アスランはキラの名前を呟いた。もうこれで百回は繰り返しているだろう。何せ今日は一日朝から放課後まで邪魔されて、キラと話はおろかまともに顔を見ることも出来なかったのだ。

 朝はカナードにもうカガリと行ったと聞かされ。
 休み時間はラクスやらひよのやらに連れ出されていて。
 追いかければ大量のハロ達に襲撃され。
 放課後は放課後で、部活の最中にシン達にチョコを渡しているところを目撃し。
 突破しようと思ったら上から落ちてきた浅月に踏み潰され……結局ほんの数秒も会っていない。

「もう、今年はダメか……?」
 再会してここ数年は妨害に会いつつも貰えていたけれど、今年は特に酷い気がする。気のせいなのかもしれないけれど、でも会えていないのは事実で。
 ……もうすぐ日付が変わる。バレンタインデーが終わってしまう。
 刻一刻と進む時計を見つめて、アスランは盛大にため息をついた。


『アスラン、メールがきたよ!』


 突然聞こえたその音(キラボイス/自作編集)に、アスランはガバッ! と飛び起きた。脇において置いた携帯が点滅しておりメールの着信を知らせている。
 直ぐに携帯を開き、本文を読んで――――アスランは首を傾げた。
「…………は?」


“まどあけて”


 液晶に表示されていたのはたったの五文字。句読点すらない。
 いやに簡潔な内容に首を捻りつつも、とにかく窓を開けようとアスランは立ち上がって窓を開けた。

「アスラン!!」
「っ!? キラ!」

 開けてみれば、そこには向かいの窓から顔を出しているキラの姿があった。やっと見れた顔に喜ぼうとして――――アスランはぎょっと目を見開く。
「行っくよー!!」
「ちょっ、おいキラッ!?」
 笑みを浮かべながら、キラが手を振りつつグッ、と身を沈める。そして助走をつけて勢いよく窓から身を乗り出し、掛け声と共にこちらへとジャンプした。
「キラッ!」
 慌てながらもこちらにジャンプするキラにアスランは腕を伸ばす。飛び込んできた華奢な体をしっかりと受け止めて、アスランはキラを抱きかかえたまま床に倒れこんだ。
「いたたた……こらっ! キ、ラ……?」
「えへへへー……」
 抱きしめていた腕を少し緩め、アスランは身を起こしながら自分の上のキラを叱り付けようとして目を瞬かせた。
 緩んだ頬、嬉しげに弧を描く口。
 ぎゅっと回した腕に力をこめてキラは嬉しそうに身を擦り寄せてくる。首を傾げて不思議そうな表情を浮かべるアスランにも構わず、キラは嬉しそうに微笑んだ。
「やっと会えたー……今日ずっと会えなかったんだもん。……寂しかった」
 珍しいキラの甘えるような言葉に、アスランは目を丸くする。
 少し軽い調子の言葉にため息をつきかけるも、それでも回されている腕がほんの少し震えていることにふと気づく。くすっと小さく微笑を浮かべると、アスランはキラを乗せたまま腕を回し直して強く抱きしめた。

「……俺も、キラと会えなくて寂しかったよ」

 そのまま顎をとらえて触れるだけの口付けを交わし微笑み合う。するとキラがあっ、と声をあげて部屋に飛び込んだ時に転がった包みに手を伸ばした。
「はい、アスラン。ハッピーバレンタイン!」
「有難う。今年は何を作ったんだ?」
「歩と一緒にガトーショコラ。味は保障するよ」
 Vサインをしてキラはにっこりと笑ってみせる。確かに、料理上手な歩と作ったのなら味はいいだろう。


 けれど。
 今欲しいものは、それじゃなくって。


「それは嬉しいんだけどさ、キラ。こんな時間に俺の部屋に来たんだから覚悟は出来てるよね?」
「へ?」

 殊更優しい笑みを、アスランはそれはそれは楽しげに浮かべて。
 その笑みに今の状況に漸く気づいたキラを逃げ出せぬようしっかりと抱きしめて。
 唇を重ね合わせたあと、アスランは存分にキラとチョコレートを味わったのであった。










「……ところで、こんな時間まで何してたんだ? 制服から着替えてなかったってことは帰ってきたばっかりだったんだろう?」
「ああそれね。歩に一月早いホワイトデーのお返し渡して来たの。昨日一足早く貰ってたからさ」
「? ……お返しって、何か作ったのか?」
「んーん、それよりももっといいもの、だよv」
「?」