イライラ、する。 「でさ、昌浩……」 「……へぇー、そうなんだ……」 「そうそう、だからあれで……」 理由が解らないものが胸の中に凝る。 面白くない、ムカつく、ズルイ。…………どれも当てはまらないようで、当たってる気がする。 例えば嫌だと、何かが叫んでるような。 ……寂しい、とか。 そんな、複雑で曖昧な感情。 ただでさえ日本語は得意じゃないのに、これ以上当てはまりそうなものは見つからない。 どうしようもなく荒れ狂うこの気持ちは、何だろうか。 「…………昌浩、俺先行ってる」 「え? リョーマッ?」 くるりと背中を向けて歩きだす。 昼休みは屋上で食べるのだけれど、今日は昌浩が話かけられて廊下で止まっていた。 自分は基本的に一匹狼だということを自覚している。だから、話しかけている彼が自分に特に話をふらないのをどうこう思いはしないのだけれど。 …………楽しそうに話す、昌浩の姿に胸のどこかがちりちりとした。 この気持ちは、何? 「……っ、リョーマッ!」 「昌浩?」 つらつらと考え事をしていた耳に入ってきた声に、リョーマは驚いて足を止めた。 振り返ると、昌浩がほっとしたような顔をして駆け寄ってくる。 そのことに驚いて足を動かせないでいると、昌浩が追いついてきて微笑んできた。 「良かった追いついて。さ、行こう?」 にこりと嬉しそうに微笑む昌浩に促され、リョーマは少し躊躇ってから歩き始める。 隣に並びながら屋上へと向かう途中小さい声で話しかけた。 「…………昌浩」 「ん? 何?」 「…………何で追いかけてきたの?」 随分と、話し込んでいたようだったのに。 「え? だってリョーマが行っちゃうから」 「別に俺、一人ででも行け……」 「違くて。……俺が、リョーマと一緒に行きたかったの」 その言葉に、瞳が揺れた。 「……………………リョーマ?」 少し俯きがちになったリョーマに、昌浩は首を傾げた。 顔を覗き込もうとして、やめる。その代わりにそっと手を握りまた歩き出した。 「…………何か」 「うん」 「何か……いらいら、して」 「うん」 「昌浩が……遠くに、いるみたいで」 「…………いるよ。リョーマの近くにいるよ」 握り締められた手に力が込められる。 くすくすと微笑みが聞こえて、こつりと昌浩が頭を軽くぶつけてきた。 「そっか、リョーマに俺すっごい好かれてるね。ヤキモチやかれちゃった」 「……ヤキモチ?」 「うん。だって比古と話ずっとしてるのがイヤだったんでしょ? うわー不二先輩より俺の方が今は上かも」 「……ヤキモチ……」 「……一緒にいたのに、一人にさせてごめんね?」 言葉と共に優しい微笑みが向けられて、困ったように苦笑する。 そんな、謝る事じゃないのに。 小さい子供のような独占欲。 けれど、今まで執着するものなんてテニス以外にほとんど無かったから。 彼女はきっと気づいてる。これはリョーマにとって大きな一歩だということに。 だから。 「…………屋上つくまで、こうしててもいい?」 「もちろん」 今はこの優しさに甘えさせて。 |