たまには、そんな時もある。 甘えるように、大切な人の温もりを感じたい時が。 「………エド?」 不意に聞こえたのは、聞きなれた声。 そっと近づいてくる気配は穏やかだった。 静かに草を踏みながら、彼女は近づいてくる。 さわさわと葉の擦れる音が頭上から聞こえたあと、すぐ傍に腰を降ろした気配があった。 「……寝てるんですか?」 そっと細い指が髪に触れてくる。 恐る恐る伸ばされた指先は心地よく、髪をさらりと梳くその仕草に本当に眠ってしまいそうだった。 うっすらと笑みを浮かべると、苦笑したような雰囲気が伝わった。 「………もう。起きてるんでしょ?」 「起きてねぇよ」 「嘘ばっかり」 くすくすと柔らかい微笑みが聞こえる。 今目を開ければ想像した通りの彼女の笑顔が見れるだろうけど、今はそうしなかった。 何となく、だけれど。 「…………疲れた?」 「…………ん。ちょっと」 お前よりは疲れてないよ、と心の中で呟く。 必死で偽りの仮面を被るお前よりは、と。 仮面はとてもとても薄くて、あまり意味のないものだけれど。 どうしても、隠さなければならない秘密を、二人で共有しているから。 二人でいる時だけその仮面は外せる。 自分も彼女も。 それもどうせ、あと少しなのだけれど。 「…………今日、泊まりに来ます?」 「おー、行ってもいいの?」 「えぇ。折角だからパジャマパーティーでもしましょうか」 「アレンの作ったグラタン食いたい」 「だったらエドがミネストローネ作って下さいね?」 「………………また大鍋か」 「君も僕もかなり食べますしね」 「お前には負けるって」 「勝ったら怖いですよ」 「んじゃ今日はベッドにクッション敷き詰めて」 「毛布に包まりましょうか」 「ココアにはマシュマロ浮かべる?」 「生クリームもつけますね」 「…………手、握って寝てもいいか?」 「……毛布、包まるのは一枚でいいですね。後は上からかけるので。」 木漏れ日と、優しい空気と静かな時間。 大切な、人。 幸せだな、と埒もなく思った。 |