だって傷つけたくなかったんだもの。

「いずれ話さなきゃいけないなんてこと、みんな解ってたのよ。私達がどんなに頑張ったって結局アレンくんは要なんだもの。どうあがいたって巻きこむことは解ってた。だから、少しでもいいから先延ばしにしたかったのよ。……でも、でもね。それは私達の勝手だったのかもしれない。理由がどうであれ、アレンくんに淋しい思いさせたのは私達なんだから。一人にしたのは私達なんだもの」
 自嘲気味にそう呟くリナリーに、歩はそっと眼下を見やった。教室の窓からは、元気にエドと校庭を駆け回るアレンの姿が見える。それを眺めながらリナリーは肩を竦めて苦笑した。
「置いてけぼりにされるの、嫌だって知ってたのにね。一人が嫌いだってこと、怖がってることちゃんと知ってたのに。それなのに私達はアレンくんを一人で置いてっちゃったの。クロス神父がいれば大丈夫だと思ってたから……」
「必要なことだったんだろう? 俺にも前に言ったじゃないか。『守りたいものがあるから戦う』って」
「そうなんだけど、ね……」
 いつになく沈んだ様子の少女に歩はそっと息をついた。机にうつぶせて腕を乗せるリナリーはどこか遠い景色を見る目をしている。そっと手を伸ばして、緑がかった黒髪の頭を撫でると彼女の唇からくすりと笑みがもれた。
「……優しいのね」
「優しくしてもらいたかったんだろう?」
「……そうみたい」
 どこか甘えるように瞳を緩ませて、リナリーは懐く猫のように歩の手へ頭を擦りつけた。
「夢見が悪かったのよ」
「そうか」
「アレン君が悲しそうな顔してたの」
「そうか」
「……そうさせたのが、私達だったらどうしようって」
「そのぶん、笑顔にしてやればいいだろ?」
「……そうね」
 歩の言葉に気分が浮上したのか、リナリーが顔を少し綻ばせる。それを見て、歩は先ほどから言いたかった言葉を漸く伝えることにした。


「ところでリナリー」
「ん?」
「今は授業中なんだが」
「だって居眠りしてる時にうっかり夢見ちゃったんだもの」



“甘えたい時は後ろを振り返れば、そこに。”








「…………リョー、マ?」
「静かに!」
「(びくっ!)……で、どうしたんだよ。こんなとこ隠れて」
「見れば解るでしょ。逃げてる」
「いや、そりゃ解るが……」
「新一先輩も言わないでよ? あの魔王に見つけられたらどんな目に合わせられるか……っ!(ぞぞぞぞ)」
「……うん、まぁ気持ちは解るんだが」
「……何スかその歯切れの悪い答え」
「いや……その、なんていうか。等価交換?」
「何でエド先輩みたいなこと言ってるんスか」
「いや、対価というか世の中はギブアンドテイクというか何と言うか……」
「???」
「……有体に言えば、俺はアイツに借りがあってな?」
「?……っ!!(びくぅっ!!)」
「リョーマ君みーつけたv(ぎゅっv)」
「しゅ、周介!!(汗)」
「確かに見つけたぞー……」
「さすが工藤先輩ですね。犯人の心理はお手の物ですか?」
「や、リョーマが単純なだけ……」
「俺は単純じゃないっス!! つーか先輩俺のこと売ったワケ!?」
「売ったワケじゃねーぞ? 探してくれって頼まれただけで」
「…………報酬は?」
「………………ホームズ記念展のチケット二枚(ぼそっ)」
「〜〜っっ!! 何でアンタがそんなの持ってたんだよ!?」
「父さんが偶然貰って来てたんだよねーv 僕はそこまで興味ないから」
「だったら無償であげなよ!!」
「さっき言ってたじゃない。等価交換って」
「だからそれはエド先輩とかの話……っ!!」 「はいはい、とりあえず部室行こうか〜?(にっこり)」
「い……イヤダァッッ!!(涙)」
「はーい連行〜v(ひょいっと担ぎ)」
「イヤだぁぁぁ――っ!!(じたばたじたばた)」


「…………ふう」
「あれ、今の越前ちゃんと不二君?」
「快斗……」
「何があったの?」
「何かリョーマが部室の屋根に乗ったボールを取りに登ったらしいぞ」
「…………まさかとは思うけどスコートで?」
「正解」
「そりゃ怒るわ……」
「まぁ、手塚が直ぐに気づいて止めさせて、桜乃が笑顔で不埒な何人かを沈めたらしいけど」
「桜乃ちゃんこわ……」
「んで不二に知られたら面倒だと逃げたリョーマを探すため俺にお鉢が回ってきたと」
「そゆこと……。んで何貰ったの? 報酬」
「今月までのホームズ展のチケット」
「あぁあれ……じゃあ何時行く?(わーい久々のデート〜vv)」
「え? お前とは行かねぇぞ?」
「えぇっ!? 何でっ!?(ガーン!!)」
「もともと歩と行こうとしてたし。何だ、そんなにホームズ見に行きたかったのかお前」
「や、普通恋人vと行こうと思わないそういうの!?」
「思わない。(すっぱり)だって歩と出かけんの久しぶりだし」
「しんいちー……(涙)」
「…………お前とは、今度な?」 「(パアァッ)!! うんっvv(ぎゅっv)」
「(扱い易いヤツ……)」


“世の法則は無体なもので。”








「うーん……」
「どうかしたのか?」
「あ、手塚。お帰りなさい、早かったですね」
「四条先生が早く見つかったからな。それで、どうしたんだお前は」
「それが……とっしーのことなんですけど」
「坊城? ……何かあったのか?」
「うーん、たぶん……最近何か変なんですよねとっしー。いきなりぶつぶつ呟きだしたり頭抱えて嘆きだしたり」
「……確かにそういえば」
「でしょ? それに僕が近づこうとするとずざざ! って物凄い勢いで後ずさったりするんですよ? 『私はそんなに不誠実じゃないーっ!』とか叫びながら」
「………………」
「仕事してる時は何ともないのにそれ以外だと僕のこと避けるみたいで……嫌われたのかな」
「それは絶対にないと思うが……」
「何で? ……もしかして手塚理由知ってるのっ!?」
「確信はないが……」
「えっ、えっ何なにっ!? 教えて!」
「……本人に聞いたほうが」
「(カチャ)各クラブには説明をしてきた。あとは報告書を四条先生に……どうかしたのか?」
「ね、とっしー! どうして僕のこと避けるんですか!?」
「(ドタバタゴゴンッ!)な、な、なっ!?」
「だってとっしー僕のこと最近避けてるでしょう? だからどうしてかなって……」
「そ、そんなことは!」
「だったらどうしてそんな二メートル近く離れてるのさ……」
「う……」
「……ウォーカー。実は坊城は今、桜乃と藤原の呪いにかかっていてな」
「え、呪い?」
「ああ。それは“自分の尊敬する人に近づくと動悸、息切れ、眩暈がして赤くなり意識が混濁する”というものでな。俺も昔桜乃にかけられたことがある」
「そんなのがあるんですね……。でも、そっか。だからあんなに挙動不審に……って、尊敬? え、え、え」
「ウォーカー?」
「そ、尊敬だなんて……あ、でもとっても嬉しいです。でも僕こそとっしーのこと尊敬してますよ! 働き者だし真面目でしっかりしていて優しくて……」
「………………手塚」
「なんだ?」
「…………恩に着る」
「ああ。……しかし」
「?」
「幾らどちらにも片思いだとはいえ二股はどうかとも思うが」
「ふ、ふたまたって!! 私はそんな!!(真っ赤)」
「しかもどちらも割り込むことができなさそうな曲者強者揃いだ。骨は拾ってやってもいいが、何もあの二人にしなくとも……」
「仕方ないだろう! 私だってどうしたらいいか……!」
「あれ、二人ともどうしたんですか? そんなに騒いで」
「うわぁっ!?(ずざざっ! ごんっ! ドサドサドサッ!)」
「わぁぁっ!? とっしー大丈夫ですか!?」
「………………不憫というかなんというか……」



“純情なのか、不純なのか。まったく恋とは摩訶不思議なもの。”








 それはまるで太陽のような、


「……エド、先輩?」
「ん? おー昌浩! こんなとこでどした?」
「俺は調べ物に……エド先輩こそどうしたんですか? その頭」
 放課後の図書室は意外と人気が少なかった。部活動のさかんなこの学校では放課後一時間もすればほとんど人はいなくなる。珍しく弓道部が休みとなったために“仕事”の調べ物でもしようとやってきた昌浩は、目当ての本棚の前にいた人物に目を瞬かせた。
「ああこれ? 髪ゴム切れちゃったんだ。予備のも持ってなかったからそのままにしてるだけ」
 さらさらと背中に零れる金色の髪は光を受けて輝いている。普段三つ編みになっている髪はほんの少しうねりを残しているものの、ほぼストレートな状態で流されていた。見たことなかったその光景に昌浩はほう、と思わず見惚れる。
 普段は躍動的な髪がほどかれているだけでこうも印象が違うものなのか。書籍を捲るエドワードは快活な性格とは結びつかない穏やかな雰囲気を纏っていた。
 細く梳けるような髪は美しく、本当に金色の糸のようで。気が付けば昌浩はエドワードに近寄りその髪の一房に指を絡めていた。
「昌浩?」
「え、あ……っ! す、すみません!」
 不思議そうなエドワードの声にハッとして己のしていたことに気が付き、昌浩は慌てて指を髪から離した。少し驚いたようなエドワードに居たたまれずに顔を赤くさせて俯く。幾ら親しくはしていても、まだそんなに深く付き合ったことはなにのにあまりに不躾な態度だ。
 恐縮し小さくなる昌浩を見やり、エドワードは丸くしていた目をふっと優しげに細めるとくすりと笑って近くの椅子を引き寄せた。
「昌浩予備の髪ゴム持ってる?」
「え? あ、はい」
「じゃあ結ってくれよ、俺の髪」
「え、ええええ!?」
 しー、とエドワードは苦笑気味に唇の前に指を立てた。人がいないとはいえここは図書室である。昌浩はまたもや顔を赤くし口を押さえると、困ったように笑いながら予備のゴムをポケットから取り出した。
「あ、でも櫛……」
「いいよ適当で。どうせいつも適当に結んでるしな」
「こんな綺麗なのに勿体無くありません?」
「綺麗か? これ」
「綺麗ですよ! 凄く!」
 首を傾げるエドワードに昌浩は苦笑する。失礼します、と言ってエドワードの髪に指を差し込むと梳く必要がなさそうなほどにさらさらと零れた。感嘆のため息が漏れる。自分の髪は長いためちゃんと梳らないともつれてしまうというのに、羨ましい。
「俺からしてみれば昌浩のほうが綺麗な髪だけどな」
「そんなことないですよ。同じ黒髪ならリョーマとかのほうが」
「ああ、リョーマも綺麗だけど。でもアイツのはちょっと緑がかった黒だろ? 昌浩のは本当に……ええと、ぬばたま? って言うんだっけ。あんなふうに綺麗な黒髪だよな」
「……ありがとう、ございます……」
 ここは日本であるために、黒髪はそう珍しくない。エドワードは日本に来て結構経っていて黒髪など見慣れているはずだが、それでも賞賛してくれるのならば本当に綺麗だと思ってくれているのだろう。褒められたことが嬉しくて昌浩はふわりと嬉しそうに微笑んだ。
 髪というのは術者にとって重要な意味をもつ。そのために出来るだけ長く、そして出来るだけ美しくするように晴明からも神将たちからも言われていた。手入れは毎日欠かさずに――紅蓮たちがしていてくれていたので、やらせてしまっていることを今更ではあるが申し訳なく思う。だがそれと同時に彼らの行為も褒められた気がして、昌浩はエドワードの髪を丁寧に結っていった。
「はい、出来ました!」
「おー! ……なんか俺よりも上手いんじゃねぇ? これ」
 鏡を出して見やるエドワードの言葉に首を振る。こんなに上手く出来たのは恐らく生まれて初めてだろう。

 そして恐らく、こんなに長く一緒にいたのもきっと初めて。

「本当にサンキュな! 今度返すよ」
「あ、いえ、まだ家にありますしいいですよ。差し上げます」
「え? でもこれ結構ちゃんとしたやつだし」
「別にそんなに高いものでもありませんし、気にしないでください」
「うーん……よし、じゃあ生徒会室にいるだろうアレンも連れてカフェテリア行こうぜ! ケーキ奢ってやる!」
「え? え、ええぇいいですよっ! そんな奢ってもらうだなんて!」
「遠慮すんなって! 結んでもらったお礼でもあるし!」
「でもたかが髪紐一本ぐらいでそんな!」
「いいからいいから! ……それとも、俺のナンパは受けたくない?」
 ナンパ、の言葉に昌浩は一瞬きょとんと目を丸くする。だが言っていることに気が付くと唇を綻ばせおかしそうに破顔した。
「あはは……っ、解りました。お受けします!」
「おう! んじゃアレンのとこ行くか!」
「はい!」

 差し出された手をとって二人は図書室を出た。実はお互いがそのうちに話をしてみる機会を伺っていたとは知らぬままで。
 そして着いた中等部生徒会室で大わらわな状況に巻き込まれ――その時発揮した会計の才能に、次代生徒会会計の座を見込まれるのは別の話である。



“きっかけはいつだって些細なことなのだ。”








 離れないといけないと思った。
 お互いの気持ちが惹かれあっているのが解るから。だからこそ離れなくてはいけないと思った。
 本当は残された時間を共に過ごせればいいと思っていた。だけれど、もう限界だったのだ。
 溢れてやまないこの想いが。未来への希望が。
 決して望んではいけない願いを引きずり出そうとする。心の奥に閉じこめて封じたはずの欲望を晒そうとする。そんなことはしてはいけないのに。縋ってしまいそうな指先を押さえるのは限界だったのだ。
 だから、他校交流学生制度を希望したのはスザクにも秘密であった。
 少しでも離れる時間が欲しかったのだ。
 この想いに、もう一度蓋をするために。


「…………ここはどこだ」
 見渡す限り人気のない裏庭のような場所でルルーシュはため息をついた。
 明日から始まる交流学生制度のために一度下見をしておこうと来たのだが失敗であった。いや、来たこと自体はいいのだが案内を断ってしまったことが悔やまれる。一人でも大丈夫だとは思っていたが、さすがに地図もない場所では迷うのは道理でもあった。ただでさえアッシュフォード並に広い学園なのだ。予備知識も無く回ればこうなることも予想できたはずだ。それが出来なかったのは――他のことに気をとられていたからだ。
「怒るかな、アイツ」
 徹底的に隠し通したのだ。明日学校に行ってルルーシュが来ていないことを知ったらどうするだろう。別に転校というわけじゃないが、それでも三ヶ月はこちらの学園で過ごすことになる。その間に会う用事も特に無い。上手く会長が誤魔化してくれることを祈りつつ、ルルーシュは直面している問題に目を向けた。
「さて、どうするべきか」
 道を戻ってもいいが変なところに迷い込むことは避けたい。かといって人が通るのを待っていたら陽が暮れそうだ。助けを呼ぶにもどこにかけたらいいのか。
 どうしたものかとルルーシュが首を捻っていると――不意に頭上からバサバサと不思議な音が聞こえた。
「?」
 まるで鳥の羽ばたきのような――に、しては大きな音に上を向く。そしてそこにあったものに彼女はピキリと音をたてて固まった。


 ふわふわと重なる真白の羽。
 宙に浮かぶ華奢で小柄な体。
 亜麻色の髪を靡かせて、地上に降り立つ少女。
 それはまるで。


「て……ん、し?」

 信じがたい光景に目を見開き、常の彼女では考えられないほど間の抜けた顔を晒していると――同じロマエゴ学園の制服を纏ったその“天使”がふと下を見下ろし、目が合った。

「………………へ?」

 紫水晶の瞳をパチクリと瞬かせたと思うと、天使はぎょっとしたように空中で静止し。
 ――――墜落した。

「うわぁっ!?」
「えええぇっ!?」

 幸い地上とは二メートルほどしか距離が無かったとはいえ、翼が掻き消えべしゃりと墜落した少女にルルーシュは慌てて駆け寄った。尻餅をついたような格好になっている少女はいたた……! と腰と臀部を摩っている。近寄って彼女の肩に手をかけると潤む瞳とかち合った。
「け、怪我は無いか!?」
「な、なんとか……びっくりしたー、まさか人がいるとは思わなかったから……」
「びっくりしたのはこっちのほうだ。……その……今のは……」
「あー……うん。まぁその。なんていうか……ん? あれ?」
「え?」
 ふと何かに気が付いたようにルルーシュを見上げてきた少女に彼女は首を傾げる。しばしルルーシュを見つめると、何かに納得したように少女はうんうんと頷いた。
「そっか……明日からだもんね。こんな美人さんいたら有名だろうし……うんうん」
「あの、話がさっぱり……」
「あ、ごめんね。君他校の子でしょ? 明日からの交流学生さん」
「何でそのことを」
「いや、だって見たこと無い顔だったから。君ぐらい美人だったら直ぐ広まるだろうし」
 そう言って笑う少女もかなりの美少女であった。ルルーシュとは違いどこか幼い雰囲気を醸し出しつつも、顔のパーツは可愛らしく庇護欲をそそる。そんな少女に美人と言われても、とルルーシュは少々苦笑した。
「そうだ、君何年生?」
「あ、ああ私は二年だが……」
「あ! 一緒だ。僕も二年生!」
「え」
 内心でこれが同い年か!? と思わずツッコミをいれてしまった。ほわほわとした空気を纏った彼女は手を貸して立ち上がると礼を言ってから伸びをした。暫らく体を動かして異常が無いことを確かめると、ルルーシュへ満面の笑みを浮かべてみせる。
「ごめんね、驚かせちゃったよね。お詫びに学校案内してあげる!」
「え、いやそんな」
「だって迷ってたんでしょ? 何も無いこんなところに下見に来るとは思えないし」
「…………よく解ったな」
「えへ、なんとなく?」
 ほんわかと笑う少女に、ルルーシュは少し毒気を抜かれたような気になって肩を竦めた。柔らかな空気はどこか憎めず、穏やかだ。確かに困っていたことであるし、と自分を納得させるように思考を纏めるとルルーシュは肩の力を抜いて少女に笑いかけた。
「じゃあ、お願いしようかな」
「わーいっ!」
 楽しげに微笑む少女につられるようにしてルルーシュも微笑む。じゃあこっち! と少女がルルーシュの手をとり、そして――――体が宙に浮いた。

「ほわぁぁぁぁっ!?」
「あ、暴れないでねー。また落ちちゃうから」
「なっ、なっ、なぁぁっ!?」

 地上がどんどん遠ざかる。少女の背中には先ほどと同じ翼。
 在り得ないはずの――というか見ていなかったことにしておきたかった――ものにルルーシュの思考は完全にフリーズする。
 そんなふうに固まったルルーシュに気付かぬ様子で、少女はほがらかに笑みを向けてきた。

「あ、そういえばまだ自己紹介してなかったね。僕は2−6のキラ・ヤマト! よろしくね!」


 この出会いが、後の彼女の運命を変えるきっかけの一つであることを、ルルーシュはまだ知らない。




“いつだって、迷える子羊の前に救いは現れる”