“銀河紅白歌合戦”――――新しい年を迎える節目。そんな日にアルトの血筋、日本の伝統であった歌番組に出演が決まった時は嬉しかった。 いや、今までだってオファーは来ていたのだ、たぶん。ただ毎年31日はカウントダウンライブを行っていたから出なかっただけで。グレイスも知らせることはなかった。 でも今年はライブ会場と会場が近くて、そして自分の気に入っている少女も出ることが決まったから。いっそのこと二人で出ちゃう? と話したのは記憶に新しい。 ついでにその後、カウントダウンライブにもゲストで出してしまおうと目論んでいたりも――――まぁ、それはいいのだ。問題は。 (人の目の前で堂々ととイチャついてるんじゃないわよ……!!) きらびやかなステージの上、飛んで跳ねたりを繰り返しながらシェリルは笑顔のまま奥歯をぎりっと噛み締めた。 全身を使って歌いあげ、ダンスだってお手のもの。いつもならばただ歌にだけ集中していればいいというのに、視界にちらちらと映る光景のせいで否が応にも集中は乱される。 それは共に歌うランカも同じようで、笑顔で歌っていてもシェリルと同じものを見つめる目は決して笑っていない。むしろ怖い。さすが“あの”オズマと義兄妹で、ブレラと血が繋がっていることだけはある。 そりゃ、自分たちが出るステージのチケットを渡したのはシェリルだ。 シェリルもランカも、アルトの心がどこにあるのかは解っている。けれどもそれはまた別の話で、恋愛感情を抜きにしたって彼は大切な存在なのだ。晴れ舞台は見てほしいに決まっている。 だから二枚渡したのだって、恋人と――――ミシェルと来ればいい、と思って渡したのだ。だから、二人で来てくれたのは構わない。むしろアルト一人で見させるなんてことをしたら、それこそミシェルに闇討ちでも仕掛けていたところだ。 でも、だからといって。 ―――――別にイチャイチャイチャイチャイチャ……! してるのを見たかったわけじゃ、断っじて! ないのよ! 自分たちのステージを見ているアルトでミシェルを妬かせたかったというのもある。 きっとアルトは楽しく見てくれるだろう、そんなアルトを見て少し妬けばいいのだ。それぐらいの意趣返しはあった。自分たちの大切な人をかっさらっていった相手への意趣返しがこんなものなら可愛いものだろう。 でも、だからといってそれを逆手にとられるなんて――――逆に妬かせられるなんて、思ってもいなかった。 ステージの中央に駆けていくと、ランカと近付く。思わず視線を合わせたらパチリと彼女と目が合った。 ――ムカつくわね。 そうですね。 なんでアルトったらあんなのがいいのかしら。 同感です。 今からでも私たちに乗り換えればいいのに。 シェリルさんと私、二人セットのほうがミシェル君よりも絶対いいですよね! まったくだわ。 こんなに明確な意志疎通が出来るなんて、私とランカちゃんもなかなかの運命で結ばれてるじゃない? そんなことを思いながら、はからずも二人揃ってアルトのほうを向いた。 もちろん客席は遠い。けれども席を指定したのは自分たちで、それが大切な相手なら解らないわけがない。 だから視線を向けた時、ライトを振りながら華やかな笑顔を浮かべてくれて――――ああ、それだけで報われる気がする、と思った。 まったく、こんないい女二人もふっておいて。勿体無さすぎだとは思わないの? ……でも、あんたが笑うなら。 ある意味恋敵に塩を送るような真似するのだって。 あんたが幸せならそれでいいかなって――――そう思うのも本当なのよ、アルト。 こんなサービスめったにしないんだからね! ……とは、言っても。 視線の先ではガラスがキラリ。顔が近付いていくのが解る。 別にアンタは幸せにならなくたっていいのよ、メガネ。 『君は誰とキスをする?』 帽子についていた羽飾りを自然な動作でもぎ取る。横でランカが少しぎょっとしたようだ。 そんな彼女にウィンクを送って。 振りかぶって、投げた。 当然、見事命中。 私もなかなかよね、そのうち始球式か何かのオファーがきたりしないかしら。 『わ……わたし、それとも』 『アタシ?』 一瞬ぎょっとしたらしいランカがどもる。シェリルは笑いながら歌い続け、ランカはちらりと心配そうに客席を見やった、が―――― スコーン!! 『……たったひとつ命をタテに』 『い、ま振りかざす感傷』 ……今飛んでいったのはマイクよね? 直ぐに携帯のオオサンショウオに持ち帰ると、ランカは何事も無かったかのように歌い続ける。満面の笑顔が恐るべし、超時空シンデレラ。 さすがに視線が少しばかり痛いのは仕方がないだろう。 けれど、 これぐらい、許しなさい。 『『いま、振りかざす!』』 『『感傷――――!』』 あたしたちの大事な人なの。 幸せにしなかったら許さないんだから! “感傷ですませてあげるから、だから、生きて(いつまでも幸せに!)” |