それは束の間の。
 いつか出会う時の流れとの、出会った時の流れとの。
 刹那の交わり。





【逢瀬間隙】







 ある日、いつものように家に帰って部屋に入ると、知ってるようで見たことのない少年が苛立った顔で立っていた。

「……………………へ?」
「……何だよ。ジロジロ見て」
「え、あ? へ? ……も、もしかして、そのかっこはリボーンッ!?」
「もしかしなくてもそうだっつうの」
「ちょ、なにっ!? どうして大きくなってんのっ!? っつーか俺とあんまり変わらないし!」
「あのバカ牛のバズーカのせいだ。……ったく久々に帰ってきたかと思えば……」
 部屋の中にいたのは上から下まで黒を身にまとった少年。帽子の鍔の上には見慣れた緑色のカメレオンが乗っている。
 そんな格好をしている人物を、ツナは一人だけ知っていた。でも、今目の前にいる彼は自分の知っている彼と大分──いやかなり──見た目が違う。
 そりゃそうだ、何せ10年後なぞという通常ならありえない状況なのだから。

 だけれど、その姿は。……何というか。

「…………格好いいよな……」
「あぁ? 何か言ったか?」
「いや、何も」
 今の自分と背は同じくらい。なのに妙にカッコイイのだ。大人の色気、というか何というか。
 自分にはない、達観した艶やかさというものが備わっている。そのことがどうも理不尽な気がしてならない。
 何より、自分は確かに彼を知っているのに。目の前にいる彼は、全く知らない人のようで。寂しいような……怖いような、恥ずかしいような複雑な気持ちになる。
 そんな自分の心を持て余し気味にしつつ、ツナは一先ずそこらに鞄を置いた。
 そしてベッドに座るとリボーンを見上げる。
 視線に気付いたのかリボーンがツナを見下ろす。それも普段ならないことで、何故か少し胸の鼓動が早い。

 どうせ直ぐに戻ってしまうのならば、余計なことを話すよりも見るだけに留めようと思ったのだ。
 きっと、自分は十年後にこの姿を見れる筈だから。
 なのにリボーンは───何故か片眉を少し上げてみせると、フッと笑ってみせた。

「……何だよ、俺が格好良すぎて見惚れてんのか?」
「なっ!?」

 バッチリ図星に近いことを言い当てられてツナの顔が赤く染まる。
 それを見ながら喉の奥でククッと笑ってみせ、リボーンは少し屈んでベッドの後ろの壁に片手をついた。
 暗くなった視界に、俯いて顔を隠していたツナが不思議そうに顔を上げる。
 上げて、理由を探ろうとして───唇に触れた温もりに、目を見開いた。

「んんっ!? …ん、っ…!」

 目の前には、目を閉じた少年の顔。置かれた状況にしばし茫然としていたツナは、重ねられた唇に感じた生暖かいものにぴくっと肩を震わせる。
「んぅーっ!? ん、んんっ!……っ、ふぁ……っ!」
 口の中に滑り込んできた舌に翻弄される。何もかも絡めとられるようにされる口付けは、決して少年が簡単に習得できるものではない。そのことに気付くものの、だからといって何が出来るわけでもなく。
 上顎や、舌の裏までたっぷりとなぞられて甘い声が隙間から漏れでるのを止められない。やっと離してもらえたころにはすっかり息が上がっていて、くったりと体を壁にもたれかけさせていた。
「…………やっぱりこの頃から甘かったんだな」
「……は……?」
 目の前で唇を渡った銀糸を舐めとるのを若干潤んだ視界で見ながら、ツナは惚けた声で問い掛ける。
 そんなツナを見てくすりと笑うと、リボーンは前髪をそっとかきわけて顕わになった額に口付けを落とした。


「…………続きは十年後でな、ツナ」


 その言葉を最後にして目の前で煙が上がり、十年後のリボーンの姿は掻き消えた。











「…………何してんだ? ツナ」
「うるさい。今話しかけんな」
 戻ってきてみれば、ベッドの上で丸くなっているツナにリボーンは小さくため息をつく。
 まぁいいかと放っておき、彼が部屋を出ていくとこっそりツナは布団の中で呟いた。
「なんなんだよ、ったく…………」

 その顔が林檎のように真っ赤だったことを知る者は、いない。







 煙の中から現われた瞬間に口付けても、目の前の青年は全く動じずに受けとめた。
 椅子に座った彼の上に覆い被さりながら、少年は先程見てきた人物との違いにじっと相手を見つめる。
 手が止まってこちらを見つめるその様子を見て、茶色の髪を伸ばした青年は柔らかく微笑んだ。
「お帰り、リボーン」
「…………」
「何? どしたの?」
「いや……人間十年経てば変わるもんだな、と。」
「? ……あぁ、あれか、いきなりキスされた時の」
「覚えてるのか」
「忘れるわけないだろ? ……あの頃から、意識しちゃって仕方がなかったんだから」
 くすくすと笑う青年の顔に顔を寄せて、少年も妖しげに笑う。
 するりと首に絡んできた細い腕に、ふっと目を細めて──リボーンは綱吉の後頭部に手を差し入れた。
「……んじゃ、約束通り続きすっか」




 それはいつか出会う、未来のお話。





“あともう少し、甘いキスはお預けで”








First 2006-10-08
Renew 2009-01-07