「今年も色々あったなぁ……」 「まぁな。不肖の弟子を送り出したりとか」 「あれは送り出すって言うんじゃありません! 叩き出すって言うんですっ!」 「そのままだな」 「認めるんですか」 「認めるも何もお前を送り出したのは俺だ」 「その送り出し方に問題があるんですよ……!」 がっくり。 と音が聞こえてきそうなくらい肩を落とすアレンに、クロスは快活に笑う。 言っているその言葉は冷たくとも、その目はどうみても子供が愛しくて仕方ない大人の目をしていた。 「ちょっとちょっと!! 師弟で語るのもいいけど、せっかくのニューイヤーパーティーなんだからちゃんと輪に加わってよ!」 「とか何とか言って、お前俺がアレン一人占めしてるのが羨ましいんだろ」 「アハ、バレた?」 「我が教団のアイドルを一人占めには幾らクロスでもさせないぞー♪」と言いながらアレンにひっつくコムイからは酒の匂いが仄かに漂う。きっと少し酔っているのだろう。……後ろで殺気を出している神田に全く気づかないくらいなのだから。 「おいてめぇコムイ! モヤシを離しやがれっ!」 「えーっ? いいじゃん神田君はいつでもアレン君といちゃいちゃらぶらぶでしょー? 僕だってたまにはアレン君に触りたいーっ!」 「コ、コムイさん……」 そう言って子供のように頬を擦り寄せてくるコムイにアレンは苦笑する。しかしすぐにその腕は離され、代わりに力強く抱きしめられた。 「誰がやるか。一分一秒だろうとコイツは俺のモンだ」 「か、神田……」 普段だったら言っわないような台詞を言われ、アレンは頬を赤く染める。 彼もお酒が入っているのだろうか? だとしたらお酒の力って恐ろしい。でもそのお陰でこんな言葉が聞けたのだから、感謝してもいいくらいなのだが。 驚いたのはコムイやクロス、他の団員も一緒だった。アレンの体を後ろから抱き込む神田を興味深そうに見ている。 「神田君……言い切ったね……」 「しばらく見ない内に素晴らしい変貌ぶりだな」 「変貌させたのは君の溺愛している弟子だけどね」 「……もうしばらく手元に置いておいても良かったか」 本気でそんなことを考えるクロスを放り、コムイは未だに離れないバカップルに近づく。目指すは我が教団のアイドル奪還。(限りなく不可能に近いのだが) が、しかし。 ここにソレをやり遂げた勇者(命知らず)がいた。 「アーレーンーッvv」 「わぁっ!?」 「っ!」 びゅんっ! と風のように姫(笑)を浚い、その腕に抱き込んだのは教団一の破壊神、ラビ。 「やっりーっ! 姫奪還!」 「ちょっラビ下ろしてっ!」 「やに決まってるさ。こーんな可愛いカッコしたアレンを誰が離せるかってーのっ!」 ちなみに、今のアレンの格好はリナリー・リー自信作である。 名付けて「大晦日バージョン・アレン君アイドルコスチューム」らしい。 真っ白なファーのハイネックの半袖ニット。スカートは濃い赤のベルベット生地で後ろと前の長さが違っている。後ろは足首まできそうな長さに対し、前は膝丈ぎりぎりだ。 そして……その肩にかけられた白いショール。神田からの誕生日プレゼントであるそれを、アレンはとても大事にしている。が、大事にしすぎてちっとも使わないために今回はリナリーが説き伏せたのだ。 そして、その愛らしさに惑わされ野獣と化そうとした者どもを、六幻で切り捨てた神田がいたり、後方からトンカチで殴り付けたクロスがいたことは言うまでもない。 話は戻って。 現在その服を着たアレン姫(笑)はラビの腕に抱かれていた。奪い去った時にアレンを腕に乗せるようにしたお陰で、不安定な位置にいるアレンはラビの頭を抱きしめるようにして座っている。……つまりはアレンの胸がラビの頭に当たっていた。 しばらくその感触にへらへらとにやけていたラビだったが、不意に感じた殺気にその身を凍らせた。 「……兎。今すぐモヤシを離しやがれ」 あのー神田さん。その手に握られた発動中のイノセンスはもしかしてもしかしなくても俺狙いですか……?(汗) アレンを離すのは名残惜しいが、さすがに神田の本気の六幻を受けたくはない。せっかくの日なのだし、医務室送りは勘弁だ。しぶしぶラビはアレンをその腕から解放した。 するとアレンはすぐさま神田に駆けより慌ててイノセンスの発動を止めさせる。 どうにか静めさせてホッとし、ふと時計を見上げて――アレンは叫んだ。 「あぁっっ!! もう一分前ですよっ!?」 「なにぃぃぃぃっっ!?」 時計の針は12時59分を指していた。 「リナリー! クラッカー!」 「はーい!」 「リーバー。ワインつげ」 「はーい……」 皆が慌しく用意をしてその瞬間を待とうとする。その中で、そっとアレンは神田の服を引っ張った。 「何だ?」 「あのね、初めてなんだ。こんなにたくさんの人達と一緒に年越しするの。今年は色んな初めてがたくさんあって、すっごく楽しかったし嬉しかったけど……」 そこで一度言葉を区切り、躊躇うようにアレンは俯く。 「さぁーカウントダウンいくよー!」 会場にコムイの声が響いて、一斉にその場の人々が声を揃えた。 「その中でも一番嬉しかったのは」 『5!』 「皆と出会えたことよりも」 『4!』 「帰る場所が出来たことよりも」 『3!』 「こんなに広い世界の中で」 『2!』 「たった一人大切な君に出会えたこと」 『1!』 「かん、――──ユウに出会えたことだよ」 「『A HAPPY NEW YEAR!』」 ──そして新たな年の始まりを世界中が告げた。 「──っ!」 「今年も、よろしくお願いします!」 微笑んでそう告げるアレンに、神田は顔を手で覆い深くため息をついた。 「、ったく……」 何だかいろいろ、負けた気がする。 あんな告白、反則だ。 そんな顔で言われたら信じるしかできない。 笑い飛ばすことも、からかうことも出来やしないではないか。 だとすればすることはただ一つだろう。 細い肩を引き寄せて、その耳に囁いた。 「── …………」 「……えっ?」 囁かれた言葉にアレンは真っ赤に頬を染め、そして一瞬後幸せそうに破顔した。 その笑顔を受けて神田もまた微笑む。 幾年月が経とうとも。 私の居場所が貴方の隣にあることを、切に願う。 貴方の言葉を、信じましょう。 『……だったらこれからもずっと、この瞬間には俺の隣にいろよ』 世界が始まりを告げ、また新しい年が始まる。 祝いの鐘が鳴り、人々は笑いあう。 祈り、願い、新しく始まる一日。 そして今、全ての世界が新しく時を迎えた。
“何度この瞬間が巡っても、 |