“閉ざされた扉の向こうに 新しい何かが待っていて”


 ―───他の誰でもない、ただ一人。君に言って欲しくて。
 僕は走る。
 走る、走る、走る。


 君の、もとへ。




Happy Words





「アレンいる!?」

 バンッと開け放った扉の向こうに、愛しい少女の姿は見えなかった。
「あら、ラビ? どうしたのそんなに息切らせて」
「だいじょぶさ……それよりアレンは?」
「アレンくんならさっき訓練場へ行ったわよ?」
「またか〜っ……」
 がっくりと肩を落としたラビにリナリーは首を傾げた。
「何かあったの?」
「いや、別に……ちょっと、さ」
「ふーん……あぁ、そういえばラビ。た」
「どわぁぁあ──っっ!! ストップストップッッ!!」
 ふと今日の日付を思い出して微笑んだリナリーが口を開く。しかし言葉は盛大に悲鳴をあげたラビに遮られ、リナリーは瞳を瞬かせた。
 そして一瞬のちにその原因を理解して笑う。

「……まだ大丈夫なんだ?」
「あー……ジェリーとか危なかったさ」
「でも皆言いたいと思うわよ? 早く言ってもらっちゃいなさい」
「言われなくても……行くさっ!」
 にっ、と快活な笑みを浮かべるとラビはまたそこから走りだした。




 誕生日、だなんて一つ年をとるだけとは解っているけれど。ブックマンの後継者である自分にそんなものはいらないのだろうし。
 それでも、何か欲しくて。
 『何か』は一つだけなのだけれど。
 大きな声で叫びたいのを我慢して。


 息を切らして、走る。
 駆け抜けた道は振り返らずに。
 ただ、未来へと夢を乗せて。

「ガキじゃあるまいし……何やってんだかね、俺も」
 そう自分に言いきかせるけど。

 何が何でも、欲しいんだ。




「ラスト……っと」

 ここ以外は全て見回った。
 あと残すは、ここだけ。



“閉ざされたドアの向こうに 新しい何かが待っていて”



 自室のドアをそっと開けると、白銀が蝋燭の灯りにきらめくのが見えた。
 テーブルの上にはケーキと、オレンジのラッピングがされた小箱。
 つっぷした

 ―───誰よりも、愛しいひと。

「……アレン」

 その名を呼ぶ。
 近寄ると、少し震えた瞼が開いて銀灰色の瞳が自分を映し出した。

「ラビ」

 穏やかな声が自分の名を呼ぶ。
 ふわり、と甘い笑みが向けられて。

「ごめんなさい、眠っちゃって……」

「でも、どうしても言いたくって」

「ねぇラビ」



 きっと、きっとって。
 僕を動かしてる。



「誕生日おめでとうございます」



 あぁ、その微笑みだけでこの世界は薔薇色だ。





“輝きを放つのは、君がいるから”