暁の車を見送って 褥の中で、昌浩はゆっくりと瞼を開いた。 未だ、夜明けは来ない。 空は白くなり明るくなって来ているけれど──――心の夜明けは遠い。 ぽつりと、涙が滴った。 出会い始めの間抜けた姿。広くて大きな、頼りがいある背中。赤い炎。 包み込んでくれる大きな手。優しい眼差し。 白い尾。揺れる耳。夕焼け色の瞳。 ああ、なくしては、うしなってはいけないものだったのに。 「ぐれん」 本当に。 小さく小さく呟いた。 “彼”に聞こえぬように。 「……もっくん……紅蓮……っ、もっくん……っ!!」 何度も何度も呼んで。 夢の中で叫ぶのに。 行かないでと。 叫ぶのに。 振り払われた手。 もうあの名は呼べない。 冗談半分につけた、それでも大切なあの名前は──――。 「……愛してる……っ!」 もう、呼べない。 それでも。 どんなにこの胸が痛もうとも。 消させない、消さない、消したくない。 心に光る、灯を──── 車は 廻るよ──…… 暁の車は進む。 少女の思いなど知らぬかのように。 それでも。 灯は、まだ消えてはいない。 “愛という名のともしびは眠る”
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