暁の車を見送って
オレンジの花びら
揺れてる 今もどこか
いつか見た 安らかな夜明けを
もう一度手にするまで
消さないで灯







 褥の中で、昌浩はゆっくりと瞼を開いた。
 未だ、夜明けは来ない。
 空は白くなり明るくなって来ているけれど──――心の夜明けは遠い。

 ぽつりと、涙が滴った。

 出会い始めの間抜けた姿。広くて大きな、頼りがいある背中。赤い炎。
 包み込んでくれる大きな手。優しい眼差し。
 白い尾。揺れる耳。夕焼け色の瞳。
 ああ、なくしては、うしなってはいけないものだったのに。

「ぐれん」

 本当に。
 小さく小さく呟いた。
 “彼”に聞こえぬように。

「……もっくん……紅蓮……っ、もっくん……っ!!」

 何度も何度も呼んで。
 夢の中で叫ぶのに。
 行かないでと。
 叫ぶのに。

 振り払われた手。
 もうあの名は呼べない。
 冗談半分につけた、それでも大切なあの名前は──――。


「……愛してる……っ!」


 もう、呼べない。

 それでも。
 どんなにこの胸が痛もうとも。
 消させない、消さない、消したくない。
 心に光る、灯を────





車は 廻るよ──……







 暁の車は進む。
 少女の思いなど知らぬかのように。

 それでも。
 灯は、まだ消えてはいない。






“愛という名のともしびは眠る”







First 2003
Renew 2009-01-07