「今日こそ一緒に来てもらおうか」 「嫌です」 即答。 手を差し出していた男のこめかみがぴくっと引き攣った。 「……来ないというのならば無理矢理にでも連れて」 「チュチュ、十万ボルト」 「チュッ!!」 親であるイエローの命令に忠実に――命令されなくてもしていただろうが――従ってチュチュから一気に電撃が放たれる。それをすんでで避けてワタルは少しだけ冷や汗を流した。 「何もいきなり攻撃することないだろう……」 「これぐらいしないと引いてくれないじゃないですか」 足元にいたチュチュを抱き上げて、イエローは眉間に皺を溜めつつ後ろへと下がった。 常ならば誰にもこんなつっけんどんな態度はとらないが、ワタルだけは別である。イエローだって最初からこんな対応をしていたわけではない。ワタルが度々やってくるようになって、その度に変なことを言い出したりするからいけないのだ。もはや最近は告白よりも脅迫だとか宣言だとかのほうが多くなっている。初対面の冷酷さは一体どこに行ったのだろう。 「いつも言ってるじゃないですか! 僕は好きな人がいるんです! もうこれ以上変なこと言わないでください!」 「ふっ……今日こそはそんなことを言っても無駄だ。さぁハクリュー、イエローを」 「オムすけれいとうビーム!」 「うわっ!?」 ぽん、とハクリューがボールから出た瞬間強烈な冷気がワタルを襲った。見ればいつの間にかイエローの周りには彼女の持ちポケが現れている。いつの間に。 「僕だってバトル練習しているんですよ! そうやすやすと負けません!」 「そんな強がりを言ってられるのも今のうちだ!」 「っていうか一回勝ってるもん!!」 「ぐ」 確かに、絶対に負けられない戦いでイエローには一度惨敗している。だがそれもあの時はレッドやブルー、グリーン達の力もあったからだ。今回は負けられない。というか負けたら四天王の名が廃る。 「行くぞ!」 「チュチュ、構えて!」 ぐっとチュチュが身を沈めて、ハクリューが姿勢を屈め―――― 「ウィンぴょんかえんほうしゃ!!」 瞬間、回り込むように向かってきた炎にワタルはプテラで空へと逃げた。 「な……っ!?」 「ほんっとーにアナタもしつこいですね……!!」 「く、クリスさん!」 ウィンディに乗って現れたのはクリスだった。イエローを見てホッと息をつくと、クリスは直ぐにイエローを後ろに庇うようにワタルと対峙する。ウィンディから降りてイエローに近づくと、クリスはがしぃっ! と彼女の手を握り締めた。 「大丈夫でしたかイエローさん! このロリコンに何か変なことされませんでしたか!?」 「誰がロリコンだ!」 「十分ロリコンです。ああ、もう大丈夫ですよイエローさん! 私が来たからには指一本触れさせませんから!」 「そ、そんなクリスさん! ご迷惑をかけるわけには……」 「迷惑だなんて! 私はイエローさんがあんな変態の餌食になるのが我慢できないんです。イエローさんは優しいからあんまり抵抗も出来ないでしょうし、心配なんですよ」 「クリスさん……!」 クリスの言葉に感激したように、イエローが手をぎゅっと握り返した。 先ほどワタルへ容赦なく電撃を浴びせようとしたのは何だったのだろうか。ほんの数分前の攻防を思い出しながらワタルは眉を潜める。イエローの優しさは確実に自分だけ向けられていない。そのことを苛立たしく思いながら、ワタルは気を取り直してハクリューへと顔を向けた。 「ハクリュー、あのウィンディを再起不能に……」
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