※二期本編18話ネタバレを多分に含みます。次回予告・19話・雑誌情報なんて総無視。捏造だらけの願望的捏造です。読んでからの苦情はご遠慮願います。
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 白い光の洪水に何もかもが消えた。
 願いも、祈りも、希望も、全てが一瞬にして消滅する。
 世界で一番守りたいものも、その中に。
 何のために此処まで来た?
 何のために行動を起こした?
 どうして、何で。自分は何をしている?
 白い光を撃ったのは白い騎士。
 ならばそれを憎めばいいはずなのに、思考は動くことを止めない。

 撃ち出される数秒前、ランスロットが動きを止めていた。
 何かを諦めたかのような動きをしていた。腕が、足が切り落とされ死の寸前――――

「……ッッ!!」

 死が、白騎士に降りかかろうとするならば。
 白騎士は魔王のかけた呪いで生を求め足掻きだす。
 その呪いが発動したせいで、騎士があの光を生み出したというならば。

 光を撃ったのは騎士で。
 騎士が撃ったのは呪いのせいで。
 騎士に呪いをかけたのは魔王で。
 もし魔王が呪いをかけていなければ、光の中に宝物は消えなかった。

 つまり、それは。
 魔王が、自分で宝物を。









 呆然としていたスザクは租界に出来た巨大なクレーターをぼうっと見つめた。もはや何を缶上げればいいかも解らない。全て消えた。スザクの撃ったあの光の中に、全て。
 唯一残されたものすら、光に消えた。
 あの一瞬、確かに死を覚悟した。そのことがスザクにかけられたギアスを発動させたのだ。ルルーシュのかけた呪いがスザクにフレイヤを撃たせた。
 引っ切り無しに通信が入ってくる。しかしそのどれにも反応することが出来なくて、スザクはただぼんやりと全てが消えうせた場所を見つめていた。
 ふと、視界に黒が映る。
 視線を逸らすと、そこには漂うようにクレーターへ近づく蜃気楼があった。クレーターに蜃気楼を止めて、中にいた人物はナイトメアを降りる。仮面もマントも何もない、無防備な格好だった。ふらふらと覚束ない足取りで中心のほうへと近づいていく。やがて彼は座り込むと、なにやら手をおもむろに地面へと突っ込んだ。
「……何を、して」
 暫しその姿を見ているだけだったが、スザクはランスロットを下に降下させた。
 ランスロットから降りてルルーシュの傍へ近づくと何をしているのか解った。がりがりと、指で地面を掻くように土を削っている。まるで何かがその下に埋まっているように。服が汚れるのも構わずに一心不乱にルルーシュは地面を掘る。
「…………無駄だ。フレイヤは全てを消滅させる兵器だ」
「解らないじゃないか。埋まっていたら苦しいだろう、早く助けなくては……」
「ッ、ナナリーは死んだんだっ!!」
「嘘だっ!!」
 思わず叫べば返されたのは罵声だった。彼は土を掘るのを止めようとしない。白かった手袋が見る間に茶色になっていく。柔らかくない地面を掘っているために、だんだんと生地が綻び肌が露出してくる。それでも彼は手を止めようとしない。
 ルルーシュがそんな真似をするのが何故か苛立たしく、スザクは怒鳴った。
「嘘じゃない、ナナリーはあの光の中に消えたんだ! 政庁ごと消え去ったんだよ! 俺が撃ったフレイヤで!」
「…………それは違うさ、スザク」
「え、」
「お前が撃ったんじゃなくて――俺が撃たせたんだよ」
 そう言って振り向いたルルーシュの顔を見て、スザクは言葉を失った。
 何時でも輝いていた、それが怒りであろうと何であろうと光を放っていた紫水晶が暗く濁っていた。生気の欠けた虚ろな瞳でスザクを見る。まるでそれは死んだ人間のもつような目だった。
 左目の赤だけが煌々と光る。対照的なまでに燃えるその赤は、彼を食らうような光を放っていた。
 その瞳に言葉も無くスザクが立ち尽くしていると、ふとルルーシュが微笑みを浮かべた。まるで子供のような幼い微笑みにスザクの肌が粟立つ。ルルーシュはいっそ無邪気なまでにスザクへと請うた。
「なぁ、スザク。俺を殺してくれよ」
「……え?」
「そうすればお前はまたゼロを討った英雄だ。ユーフェミア皇女の仇も、ブリタニアへの反逆者の首もとれて一石二鳥だ。これだけの功績ならナイトオブワンだって夢じゃないぞ。何せ合衆国連のCEOだからな」
「何をいって」
「それに俺はナナリーのもとへ逝ける」
 ナナリーは天国だろうから、ほんの数瞬かもしれないけどな。そう言いながら笑うルルーシュにスザクは動揺した。
 それはスザクの願いの一つかもしれない。ルルーシュを殺してユフィの仇を。だけれどもそれは本当に望むことなのだろうか。再度取れなかった手をまたも、永久に手放すのだろうか。それで本当にスザクは救われるのだろうか。もうナナリーもいない。守りたかった人は皆消えた。失うものなど何も無くなった。どんどん一人に――――
「……なるのは君だ」
 絶望よりも尚深く、死よりも辛い。それは目の前で壊れたように笑うルルーシュだった。
 そしてスザクに残されたものは、壊れかけたかっての親友。
「殺せ、スザク、俺を……お前の主君の仇を討て!」
「……でき、ない」
「何故!! お前はユーフェミアの騎士だろう!」
「でも出来ない!」
「やれ!」
「嫌だ!」
 ああ、そうだ。嫌なんだ。憎いし辛いし許したくないけれど、でも、もう。
「君は僕に……二度も幼馴染みを殺させるつもりか……?」
 もうこれ以上、あの夏の日を踏みにじるのは。
「違う。違うぞスザク。俺はもう、とっくのとうに死んでいるんだ。お前はその亡霊を消すだけだ」
「え?」
「スザク、お前は正しかったんだ。俺の存在が間違っていたんだよ。一年前にお前が言ったように、俺はとっくに世界の枠組みから外されていたんだ。俺はいちゃいけない存在なんだ。消えるべき存在なんだ」
 一年前に神根島で言われた時は激昂した。しかしそれはつまり『本当』のことを言われたからで。
「俺は世界を裏切り、裏切られた。俺の存在が間違っていた。そう解った時に、俺が、この世から消え去っていれば……ナナリーは、死なずに済んだのに!」
「ルルーシュ、それはっ」
「ナナリーだけじゃない! クロヴィス兄上も、ユフィも、シャーリーも、俺が出してきた多数の犠牲も……俺さえいなければっ! ナナリーはっ!! お前だって、俺さえなければ今も日本で……」
「ルルーシュ、それは違う!」
「違わないっ!! 俺の存在が間違っていたんだ!」
 思わず駆け寄って抱きしめた。これ以上彼が自分を否定する言葉を聞きたくなかった。彼の言葉は嘘ばかりだけど、この言葉は違う。これは――――懺悔だ。後悔なんて後で出来ると言った男が、後悔している。
「……殺せよ……スザク。俺を、殺せ……」
「ルルー、シュ……」
 スザクの腕の中で力なく呟くルルーシュを、スザクは更に抱きしめた。生きるためにこの戦を起こしたルルーシュは殺せ、殺せと何度も呟いている。殺したいはずのスザクはルルーシュを抱きしめている。今度はスザクの番なのだろうか。
 もし今、スザクにギアスがあるならばルルーシュにどんなギアスをかけるだろうか。
 (たぶん)
 彼と、同じ。
 もう一人にしないでほしい。

 誰も彼もが光に消えた。大切な人も、それを想う心すらも。
 魔王は一人になる。ギアスの力は孤独にする。守ろうと想ったものすら奪い去る。
 人は自業自得と呼ぶのだろうか。力など手にせずに、終焉に向かえというのだろうか。
 終焉を望まなかった少年は、たった一人のために力を手にし、その力でたった一人を失う。
 愚かなのだろうか。罰なのだろうか。咎なのだろうか。
 けれど、それでも。


 腕の中に抱きしめた少年は、まだ暖かかった。



“命はまだ、この腕の中にもうひとつ”