※二期本編18話ネタバレを多分に含みます。そしてただの願望です。本当にただの悪あがき的な捏造願望(でも本当になってくれたら嬉しいなぐらいの)です。『愛に死す』と少し続いています。そちらのラストがお好みならばこちらの閲覧はご遠慮ください。読んでからの苦情はご遠慮願います。 Uターンorスクロールでどうぞ! 光が見えた気がした。 全てを食らい付くす、破壊の光。圧倒的な力で何もかもを飲み込んで消し去って。 音が消えて空気が消えて、やがて身の周りの全てを――――この身すらもを飲み込んで。 そして、弾けた。 「…………っ、ん……」 体が痛い。節々が軋むように呻きをあげていて肌がひりひりと焼けるように熱くなっている。手で辺りを探ってみると、冷たい感触。座っていたはずの車椅子は無く、何か固い石のようなものに横たわっていた。 しん、とした無音の世界。命の息づく音は聞こえず気配すらない。ただ、どこか広い空間にいることは直感で気付くことが出来た。 「ここ、は……」 腕で体を支えて上体を起こす。幸い酷い怪我などはしていないらしい。ホッとすると同時に、あの瞬間まで傍にいたはずの人がいないことに気が付いた。 「咲世子さん……っ!」 懐かしい声だった。一年経った今でも変わらぬ頼もしい人の。自分達兄妹を支えてくれた優しい人。驚きもあったけれど、それ以上に再会できたことを喜んだ。 彼女は何処へ行ったのか。いや、そもそも此処は何処なのか。 瞼の裏側に差した死の光。見えなくとも解る、あれは全てを滅ぼす悪魔の光だ。確かローマイヤはあれを「フレイヤ」と呼んでいた。 その光は確かにこの身に降り注いだはずなのに。あの一瞬、何が起こったか解らずとも死を覚悟した。ただ圧倒的な力に圧倒されただけだった。 腕を上げて掌を握りしめる。指を開き、また閉じて感覚を確かめた。 夢でも幻でもない。生きている。 とにかく此処が何処かを知らなくてはならない。手で周りを確かめながら這って進もうとしたその時、突如現れた気配に驚いた。 「C.C.さん……?」 それは一年前のブラックリベリオンの時に現れた少年とも同じ気配だった。しかし彼女が何故ここに、と生じた疑問は聞こえてきた声に驚愕へと変わる。 「……気が付いたか、ナナリーよ」 「っ、お父様……っ!?」 ナナリーはあり得ぬはずの事態に戦慄を覚えた。 深く響く声は、紛れもなく父である皇帝の声だった。カツ、カツ、と石を弾く靴音が聞こえる。しかしその気配は知っているはずの父の気配ではなかった。 「どうして……っ!?」 「……どうした、ナナリー」 悲鳴のようにあげた声に訝かしむような問いがかかる。その声は紛れもなく父の声だというのに、まるで別の人間のような気がしてナナリーは微かに震えを帯びた声で問い返した。 「あなたは……本当に、お父様……皇帝陛下なのですか……?」 「……ふむ。さすが、というべきだろうか……」 ふっと笑った相手はどこか楽しそうに呟く。さすがマリアンヌの娘、と相手は再度繰り返してナナリーへと近付いてくる。 忍び寄る気配に、思わず僅かにナナリーは後退った。 知っているはずなのに、知らないものがいる。気配が違う。父とは違う。確かにそこにいるのは父である皇帝なのだろう。滲む威厳は変装などで産み出せるものではない。 けれどそれは父であって父ではない――――もはや別の存在。 その時、C.C.と出会った時から考えていた違和感の正体に漸く気が付いた。 これは“人間”の気配ではない。ヒトを越えた存在の気配だ。 何かを得て何かを失い、超越したもの。 未知なる存在に肌が粟立ち、畏怖と恐怖がナナリーを襲った。青ざめる彼女に気付きつつも、皇帝は憐れむような瞳で見下ろした。 「……お前はまだ、死んではならぬ。まだ早い。だが、死んだと思わせておけば……あれが早く壊れる」 「……?」 「実に愚かだ。今は自らの力がお前を殺したことを悔いていることだろう。ここにお前がいることは誰も知らない」 「私、を……?」 「クロヴィスを殺しユーフェミアを殺し、そして今、唯一の宝すらも自らで消し去ろうとした。孤独になるのは、もはや覆せぬ。……愚かな息子だ。全てはあの8年前よりも先に始まっていたというのに。母を亡くしお前を守るための剣が諸刃だということに、あやつは気付けなかった」 「8年、前……」 その単語はナナリーにとっての運命の分かれ道だ。8年前の、あの悲劇さえなければ―――― 「……え?」 不意に生じた恐ろしい考えにナナリーは凍りついた。 クロヴィスを殺害し、ユーフェミアをも殺害したのはゼロだ。 けれども今、父は8年前と口にした。母を亡くしナナリーを守る。息子。つまり、それは、それは。 「お兄様、が……」 あの優しい兄が、 「ゼロ……?」 「愚かな男だ。しかしその苦しみも、直に終わろう。もはやゼロに――――ルルーシュに生きる意味はないのだから」 「――――帰してください!!」 有らん限りの声をあげてナナリーは叫んだ。 空間に声が反響する。悲痛でありながらも決然とした強さをもった声。少しばかり驚いた様子で皇帝は問う。 「……帰す? 何処へだ」 「ゼロの、お兄様のもとに! ルルーシュお兄様のもとに私を帰してください!」 「……何と」 どこか面白がるように皇帝は口の端を吊り上げると、目を細めてナナリーを見やった。 「驚いたぞナナリー。お前は兄の行いを許すのか」 「エリア11へ、日本へ私を帰してください。お兄様のそばに行かなくては」 「実の兄も、妹も、そして戦いに巻き込まれたブリタニアの民もイレブンもゼロに殺された。あやつの起こした行動により、多くの命が失われた。お前はそれを知っているだろう」 「それでも私はナナリー・ヴィ・ブリタニアの前にただのナナリーです! お兄様の妹です!」 「だから、許すと?」 「許すというのは違います。私には最初から許す資格も、その必要もありません」 父である皇帝に逆らうということがどんな意味を持つのか、ナナリーは知っていた。もしかしたら父などではなく、他の恐ろしいものと話しているのかという疑問も全て、ナナリーが想うたった一つに霞む。それ以外のものなど構うものか。 「お兄様の抱える罪も何もかも、私は受け入れます。償いが必要ならば私も共にいたしましょう。ですがそのどれも、私がお兄様のそばに帰ってからです!」 開かぬ眼でシャルルを見据え、ナナリーは決然たる声で言い放つ。その声に一時の間静寂が満ち、暫くしてその場にはくつくつと小さな笑みがもたらされた。 「……ナナリー、お前も罪人になるというのか?」 「……お言葉ですが皇帝陛下。私は皇族として生まれた時点で、既に罪人だと思っています。例え私の手が血に汚れていなくとも、神聖ブリタニア帝国の皇族の罪は、既にこの身に」 「ふ、ふはははははっ! つまりお前はこれ以上罪が増えたところで関係ないと、そう言っているのだな」 「はい。増える罪が、咎がどんなに重いものであろうとも。お兄様の背負うものならば、共に背負う覚悟はあります」 罪を共になどと言うのはおこがましいのかもしれない。 人は人である限り一つの定めからは逃れられない。それと同じように背負う罪もまた、人が逃れられぬものだろう。 解っていて、でもそれでも。 「私は、お兄様を愛しています」 愛している。何があっても愛している。 だから。 「どんな咎が魂に刻み付けられようと、私は逃げません。生きるために戦います」 私を。 「帰してください、皇帝陛下。私はお兄様と最期まで生きるのですから」 「……その気丈な物言い。本当にお前は母親そっくりだ」 「お父様とは似てないようですから」 「そうだな。私に似ているのはルルーシュだろう。あれは実に、私に似ている」 先ほどまでの威圧したような口調は消えうせ、どこか懐かしむように紡がれる言葉にナナリーは少しだけ首を傾げた。気配は相変わらず違くとも、確かにこれは父なのだとただ感じる。さらりと衣擦れの音が響いて、そっと手が大きな手に包み込まれた。 「…………何処が、いい」 「そうですね……お兄様のいるところがいいです」 「そうか」 何か大きな力が渦巻くのを肌で感じた。恐怖が首を擡げそうになるのを必死で押し止めて、ナナリーは笑ってみせる。そうすれば近くで皇帝もまた微笑んだのを感じた。 「兄を、信じるか」 「はい」 「それは兄妹が最も強い絆だからか?」 「いいえ、お父様。私はお兄様を愛していて、お兄様も私を愛してくださっているからです」 「……そう、か」 そして世界は再び白くなり―――― 「…………え?」 声が聞こえた。一瞬の浮遊感。 そして 「うわぁぁぁぁっっ!?」 「っ!?」 落下。 何か暖かいものに落ちた。ふわりと薫るのは硝煙の匂い。そして一年離れ離れになっていた懐かしく愛おしい人の。 「な、ナナリー!?」 ああ、あなたは知っていたのですね。ゼロが誰なのかを。でも今はそんなことはいいです。それはまたあとで。今は。 「……な、な、りー……?」 震える声。そっと確かめるように頬に触れる手袋の感触。すぐさまそれは取り払われて、温かな指が触れてくる。外の匂いと昼の光は瞼の裏。けれどそこにいる人なんて、見なくても解る。決まっている。 決壊しそうな感情を抑えて温かな手に指を伸ばした。握り締めればびくっと震えたあとに断続してそれは震え始める。ごめんなさい。ごめんなさい。気付けなくて、守られてばっかりでごめんなさい。だけれど戻るから。帰るから。帰ってきたから。 「……ただいま帰りました。お兄様」 「っ、ナナリー!」 一瞬のちに抱きしめられて、愛しい温もりに堰をきって涙が溢れ出した。 受け入れます。何があろうとも貴方の罪も嘆きも全て。 一年前、優しい義姉がそうしようと手を差し伸べたように。 それ以上に貴方を愛しています。 だから。 「どうか、もう離さないでください」 一人で戦わないで。共に歩んで。 傍にいてくれるならば、幾らだって強くなれるから。
“愛しています。だから、生きて” |