「さーてとっ! 今から私の卒業おめでとうパーティ始めるわよー! 全校生徒の諸君は正装か仮装に着替えてホールに集合! あ、今日カップルになった子達には着て貰うのがあるからクラブハウスのほうにねー!」

 とうとう終わりを告げたイベントも何とか収まりがついたと思った瞬間、またもや繰り出される女帝の発言にルルーシュはこめかみをひきつらせた。
 まだあるのか、おい。
 体力勝負は全て咲世子に任せたとはいえ、イレギュラーな事態に振り回され続けたからか疲労が蓄積されている。シャーリーとカップルになったのはかなりの誤算ではあったが、嫌なわけではない。ただ、これ以上彼女をルルーシュの近くにおいておいて巻き込みたくないだけなのだ。
 シャーリーがルルーシュのことを好きなことは一年前から知っている。記憶を無くしてから歩んできた一年で、ルルーシュが封じた記憶を思い出さないまま、もう一度好きになってくれた。そのことは純粋に嬉しいと思う。応えることは恐らく出来ないだろうけれども、それでもただただ嬉しくて幸せなことだと。
 だからこそ、もうシャーリーを巻き込みたくないのだ。辛いことや悲しいことをこれ以上味あわせたくない。彼女にはもっと優しい世界で生きてほしい。
 ただの友達とは呼べないからこそ、大切にしたかった。

 そんなことをつらつらと考えている間にも、話はどんどん進んでいた。いきなりランスロットで降りてきて祝辞を述べたスザクはついでとばかりにミレイに近づき、不思議そうな表情で周りを見渡す。皆被っている不思議な形の帽子に首を傾げつつスザクはミレイへと問いかけた。
「会長、これ何のイベントだったんですか?」
「名づけてキューピッドの日! 被っている帽子を取替えっこしたら、その二人は強制的にカップルになるイベントよー」
「…………え」
 にんまり、と笑みを浮かべながら語られたミレイの言葉にスザクはぴきりと顔を引き攣らせた。その視線は即座にルルーシュへと、正確には彼の頭上へと向けられる。そこにあったピンク色のハートの帽子と隣のシャーリーが被る青い帽子に、彼は愕然とした表情を浮かべてからミレイに向き直り涙目で詰め寄った。
「会長! どうして教えてくれなかったんですかっ!!」
「だってスザクくん来れないって言ってたし。だから別にいいかなーって」
「だって、だって強制カップルって……っ!」
「そうそう、シャーリーとルルーシュ見事にカップルよ! やーっとくっついたかって感じよね!」
「会長っ、ちょっと会長もだったんじゃないんですかーっ!?」
「何のお話かなースザクくん?」
「そんなのってないですよ――っ!!」
 眩いばかりの笑顔を浮かばせたミレイの前で、スザクはがっくりと地面に突っ伏した。白い騎士服が汚れるのも何のその。うな垂れてこの世の終わりでもきたかのように絶望しているスザクに、女の子達から離れてジノがとことこと近寄りその肩をポンッ、と叩いた。
「落ち込むなよー、スザク。何に落ち込んでるかはよく解んないけどさー」
「……そうだよ、元はと言えば君も教えてくれなかったよね……」
「え」
 どろどろと背後に青い人魂を漂わせているような暗く恨めしそうな顔でスザクがジノを見上げる。向けられる鋭い眼差しにアレ? と首を傾げるものの背筋を駆け上がる悪寒は消えそうにない。というかどうしたスザクマジで怖いぞお前。
 じりじりと全ての八つ当たりと恨みを向けられそうになっていることに気づき、ジノは後ろへと後退した。ゆらりとよろめいて立ち寄ったスザクは据わった目で彼を見つめ続ける。本気で命の危険を感じるものの、生憎今のジノには武器らしい武器がほとんどない。実は結構いやかなりピンチ。そんな目の前で繰り広げられる会話に全く頓着せずに、ルルーシュはひたすらこれからの展開をどうするか考えていた。
 シャーリーと付き合う。付き合うといっても具体的にはどういうことをすればいいんだろうか。まずは交換日記からか。いや、シャーリーとは一応キスまで進んでいるからもうそれはいいのか。だとすればデートか。段階を踏むならば最中に手を繋がなくてはいけないだろう。一体どんなタイミングで繋げばいい。恐らく嫌がられはしないだろうから、あくまでも優しくナナリーに触れるような感じでだな。昼は皆で食べているからいいとしても、これからは二人で食べなくてはいけないのだろうか。ああでもそれはロロが拗ねそうだ。それに最近はジノとアーニャも加わっているからきっと二人きりでなくともいいだろう。シャーリーならあの二人を投げ出したりなどしないはずだし。リヴァルはまぁ放っておいてもどうにかなるだろうが。ああそうではなくて、まずはこれからどうするかだ。恋人になったからにはシャーリーとの時間も作らなくてはいけない。だとすると唯でさえ少ない睡眠時間が更に削られるわけか。仕方がない、咲世子にも少々……いやそもそもこんな事態にまで発展したのは咲世子のせいでもあるのだから、任せられるはずがない! 恋人になった状態で任せたら一体どんなことになるか想像するのも恐ろしい。やはり何がしかの時間は削らなくては。だがとりあえずこれで女関係は一掃出来たわけだから、もう呼び出しにも応じなくてすむだろうし。長い目で考えてみればそれなりにメリットのあることも「ずるい」「え?」

 突然思考に割り込んできた声にルルーシュは目を瞬かせて横を向いた。そこには無表情に見える顔にほんの少し悔しげな色を浮かべたアーニャがいて、首を傾げる。ずるいとはどういう意味だろうか。
「アーニャ?」
「ずるい。私が捕まえるところだったのに」
「は」
「あなたがシャーリーと一緒になったのは、私があの時手を入れたから。だから、シャーリーがルルーシュの帽子を手に入れられたのは私のお陰。」
「アーニャちゃん……」
 むぅ、と拗ねた眼差しをシャーリーに向ける姿は本来の身分であるラウンズの一人だとは思えない。ふてくされたような仕草は年相応の少女のようだ。昔、ユフィとルルーシュを取り合いした後のナナリーの姿に似ている気がしてルルーシュは思わず頬を緩めた。
「でもアーニャ、幾らなんでもナイトメアはやりすぎだって。本当にびっくりしたぜアレは!」
「だって、どんな手でもって言ってたから」
「に、したって……」
 とんだ大騒ぎになってしまったものだとルルーシュは深々とため息をついた。その横でシャーリーが苦笑している。確かにあの場でルルーシュが彼女を助けにいかなければルルーシュは予定を変更しなかったのだから、アーニャの言うことも一理あるのだが、それにしたってナイトメアを使う神経は全く理解できない。理解したくもない。
 ともかくミレイの言うとおりのとりあえずクラブハウスに行くべきかと懸案事項を後回しにすると、不意に頭上が軽くなった。
「ん?」
「こっち」
「あ!」
 シャーリーの頭からも青い帽子が奪われ、その帽子はアーニャの頭へと乗せられた。ルルーシュの頭には変わらずピンク色の帽子が乗せてあるものの、これは恐らくシャーリーのではなくてアーニャのものだろう。小さな悲鳴をあげたシャーリーをまるきり無視してアーニャはルルーシュの腕へと抱きついた。
「譲って。私にルルーシュ」
「だ、だめだめだめーっ!! る、ルルは私のっ!」
「交換した」
「一度もうしたんだから無効だもん!」
「あーでもそれいいわねぇ」
「へ?」
「っ、会長!?」
「だって考えてみたら制限時間はちゃんと付けておかなかったし。そうねぇ……今から三分の間に取替えっこできた人の勝ちにしよっか! そのほうが面白いし!」
「「会長っ!!」」
 なんてこと言い出すんですか!! とルルーシュとシャーリーの絶叫が重なった。今さっきやっとくっついたとか何とか他にもいいこといったりしてしんみりとしたいい感じの雰囲気だったのに!! と二人が叫ぶもののその声は周りの歓喜の悲鳴にかき消されて聞こえない。そうこうしているうちにゴーイングマイウェイを突っ走る女帝様はすちゃっとどこから取り出したのかマイクを持ってにんまりと笑みを浮かべた。

『ではー! 五分以内に帽子取替えっこできた人の勝ちということでーっスタートッ!!』

「リヴァルこれ借りるね」
「え、あ、ちょっとぉ!?」
『おースザクくん参戦? んじゃリヴァルの帽子は一時的にスザクくんのものでー!』
「そりゃないっすよ会長ー!!」
「逃げるぞシャーリー!!」
「う、うんっ!!」
 歓声を上げて押し寄せてきた人の波にルルーシュはシャーリーに声をかけて走り出そうとした。が、直ぐにアーニャに捕まった。というか未だに腕が離されておらずそのうえ帽子も返してもらっていない。今のままではアーニャとルルーシュがカップルになってしまう。慌ててアーニャから帽子を取ろうとした生徒達を見据えて、彼女は一言のたまった。
「今、手を出したら後でモルドレッドで潰すから」
 その言葉に周りの生徒達はぴきりと固まった。今まさに襲い掛からんとしていた人々は引き攣った表情で成すすべなく後退する。これが唯の脅しならいいのだが、彼女はするだろう。絶対に。脅しなんてものじゃない、これは警告だ。
 だがそんな言葉に全くめげた様子もなく集団から飛び出してきた白い影。
 瞬時に肉薄し頭上の帽子を掴み取ろうとしたその手は横から出てきた手に阻まれ、距離をとった。
「渡さない」
「アーニャ、モルドレッドを出して軍を混乱させた責任は僕が上手く処理してあげるからその代わりにその帽子くれるかな」
「いや。ルルーシュは、わたしの」
「…………アーニャ、大人しく渡したほうが身のためだよ?」
「私、あなたよりも一つナンバーが上」
「一つだろう? と、いうか渡してくれないなら力ずくでいくよ?」
「手加減、しないから」
「それはこっちのセリフだよ」
「あー、なんか面白そうだしまだルルーシュ狙えるんなら俺も参加しよっかなー。つーかそれだったら俺ナイトオブスリーなんだけどさー」
「はぁ!?」
「いや、だって俺ルルーシュ好みだし。つーかどっかで見たことあるような顔なんだよなー」
「ききき気のせいじゃないか?」
「そうかー? んーまぁとりあえずアーニャから帽子奪えばいいわけだよな!」
『いやー盛り上がってきたわねー!! どんどんやっちゃいなさい!!』
「止めてください会長!!」
「っていうか私が折角交換したのに……!!」
 背後からシャーリーが嘆く声がするがもはやルルーシュにはどうすればいいかが全くもって思いつかない。輪の外でヴィレッタが心配そうな表情を浮かべている。一応軍属として見られているため迂闊に手を出せないのだ。というかスザク何でお前まで参加してるんだこのくるくる茶髪。ついでに金髪三つ編みも何でいる。お前らまとめて引っ込んでろ。
 目の前で激しい攻防戦が行われているがルルーシュにはどうすることも出来ない。しかも時間は刻一刻と迫ってくる。ミレイが『あと30秒!』と叫んだ時点で、とうとうスザクがジノとアーニャを押しのけ帽子を奪うとルルーシュの腰を引き寄せた。
「ほわぁっ!?」
「ルルーシュ! こっち被って!」
「は!? ちょっ!」
「ああもう知ってたら最初からいてどっかに閉じ込めておいたのに!!」
 何だその監禁宣言と思いつつも、もはやライフがゼロに等しいルルーシュには成すすべがない。ゼロじゃなくてもびっくり人間な男相手ではどうしようもないが。
 カウントダウンをし始めたミレイの声に合わせてアーニャが滑り込んでくる。ジノも飛び掛るように向かってきてスザクがルルーシュを抱え込んで立ち回るものだから、目が回りそうになる。そしてカウントがゼロになったところで――――

『…………あら?』
「え?」
「あれ?」

 いつの間にか、シャーリーがルルーシュに帽子を被せていた。


 結局三分間の熱き闘いは元さやに収まったらしい。





「枢木スザクやラウンズにとられるくらいだったら、シャーリーさんのほうがまだマシだから」
「そうか。私はてっきりお前がルルーシュの帽子を奪うかと思っていたよ」
「そんなことしなくても僕は兄さんの傍にいられますし。どうせ兄さんとシャーリーさんなら関係は遅々として進まないでしょうから僕との時間は削られませんよ」
「…………そうか」
「ええ。……に、しても枢木スザク……兄さんの細腰を抱くなんて……」
「…………殺すなよ?」
「今そんなことしたら面倒なことになるだけですからしません」
「…………」



 ちなみに後夜祭じみたパーティはスザクもそのまま加わりアーニャやジノと共にブリザードを巻き起こしていたとか。(主にスザクとアーニャ)
 クラブハウスに用意されていた衣装はウェディングドレスのような真っ白いドレスと同じく白いタキシードで、何故かルルーシュはドレスのほうを着せられたとか。
 そんなルルーシュを見たアーニャがモルドレッドでお持ち帰りしようとしたとか。
 それを阻止しようとしたランスロットと空中戦を繰り広げた結果、ナナリーの輝かしい笑顔が二人を待っていたとか。

 とにもかくにも、その全てがもう咲世子にあまり長時間任せずにしようとルルーシュが決意した原因なのは間違いない。





“恋の矢になんてとっくのとうに討ち抜かれてる!”