※二期本編最終話ネタバレを多分に含みます。願望的捏造話です。書いているのはルルーシュ至上主義の人物だと頭にお留め置きください。読んでからの苦情はご遠慮願います。 Uターンorスクロールでどうぞ! 忘れない、世界で一番愛したかったひと。 「これを、一緒に見ていただけますか?」 ナナリー・ヴィ・ブリタニアの差し出したディスクにその場の面々は不思議そうに首を傾げた。何ともないただのディスクだ。 首を傾げる面々――つまり、黒の騎士団幹部、藤堂や千葉にラクシャータ、カレン、神楽耶、星刻、そしてヴィレッタ、コーネリアにギルフォード、セシルとロイド、ニーナ、アーニャにジノ、そして微動だにしないジェレミアとゼロを見回してナナリーはそっとディスクを撫でた。 「騎士団の皆さんはご存知なのでしょう? C.C.さんを」 「C.C.?」 「まぁ、一応……」 「あの緑色の髪の少女か」 「これはC.C.さんが私にお渡しくださったものです」 「えぇっ!?」 ぎょっとするカレン達に少し困ったように微笑みナナリーは静かに語る。 「あの日――お兄様が亡くなったあと、数日してC.C.さんが突然夜中に現れたんです。そして私にこのディスクを渡して何処かに行かれてしまいました。中身は仰って頂けませんでしたけれど、どうやら中身はビデオらしくて。私一人で見るのは怖いので、どうか一緒に見て頂けませんか?」 お兄様が亡くなったあと。そう言うナナリーに一瞬部屋の空気が揺らいだ。 英雄ゼロに悪逆皇帝ルルーシュが討たれた日から、早くも二ヶ月。徐々に世界は安定し各国の歩みよりは成功している。武力ではなく話し合いで世界は纏まりだしたのだ。ここにいる者のほとんどはそれが誰の手で成されたのかを薄々気が付いてはいた。ただ、それを声高に言うことは出来ないと皆口を噤んでいた。 「……見させてもらおうか」 不意に言い出したのは扇だった。厳しい目をした彼に隣にいたヴィレッタも頷く。カレンや神楽耶も首肯しコーネリアは黙ってスクリーンを降ろさせる。その様子にナナリーは軽く会釈をして、ディスクを再生させた。 カチッと何処か古めかしい音がして画面いっぱいに白が広がった。何処かぼやけた映像に皆が首を傾げていると、少し苛立ったような少女の声が響く。 『まったく、どこをおせばいいんだこれは……ズームではまともに映せない』 その声は聞きなれた少女のものでカレンや扇達は息を呑んだ。撮影者はC.C.自身らしい。ナナリーに託したこれを彼女は何のために撮ったのだろうか。暫くして画面が一瞬にして引き部屋の風景が映し出されるようになった。白い壁と置かれている調度品は華美ではないものの、品が良いものだということが直ぐに解る。何処なのだろうかと首を傾げる面々が多い中で、ナナリーとコーネリアだけがはっと目を見開いた。 「あ……」 「ナナリー?」 「……ここ……アリエスの離宮です……! 私達の、住んでいた……!」 「えっ?」 驚くカレン達を置いて映像は進む。C.C.はひとしきりその部屋を映したあと部屋の外へ出たようだ。外の光を浴びる廊下は何処か寂しいようで暖かい空気がある。延々と続く廊下を見ていると、不意にC.C.の静かな声が聞こえてきた。 『……私には記憶なんてほとんどない。優しい思い出も、悲しい思い出も全部時の中へ消えてしまった。失われた記憶は、忘却されたものだから戻ることはないだろう。だが、それでいいのかもしれない。また一人になるのだから今のうちに慣れておいたほうがいいだろうな』 淡々と語るC.C.の声には諦めも嘆きも悲しみも無かった。あるがままを受け入れている声だ。まるで賢者のような語り口は朗々とその場に響く。 『でも、私はひとつ大切なものを手に入れた。私は、ずっと愛が欲しかった。ギアスで手に入れた偽りの愛情ではない、ただ私を私として、ギアスの力なんて関係なく愛してくれるものがほしかった』 ギアスという言葉、そしてC.C.の呟きにカレンは驚く。C.C.も昔はギアスを持っていたような口ぶりだった。しかもギアスの能力は愛情だという。どんな能力かは飲み込めないがとにかく愛情を自分に向けさせるものだと判断した。 『今でも私がそれを手に入れたのかは解らない。だけれども――――愛がどんなものか、愛する方法、愛の種類を私は知った』 廊下からくるりと傍の扉に向けられる。微かに人の声がその中からは聞こえてきていて、それは何処か楽しそうだった。そのほんの僅かな声でもナナリーは正体に気付き唇を戦慄かせる。C.C.の声が聞こえる。優しく、温かな声が響く。 『私は、ルルーシュを愛しているのだと思う。色恋なのかは解らないが、少なくともあいつを守りたいと、優しくできたらと願ってはいる。きっと、これはルルーシュに教えてもらったんだな。……あいつは愛を与えてばかりだ。欲しがらないくせに、人には愛を分け与えて。本当にお人よしなヤツだ。いっそ愚かだな。いや、愚かだったらよかったんだ。こんなにも愛を抱えていなければ、もっと楽に生きられただろうに。……馬鹿なヤツだ』 ほんの少し視点が下がってドアノブにかけられた手が見えた。 『これは、私の記録だ。女々しいだろうけれども、私は思い出が欲しい。アイツがいなくなった明日を生きていくための記録が。いつか無くなるものだと解っていても――――過去が欲しいんだ』 そして、扉は開かれた。 『だからスザク! シャツ類はそう畳むなと言っているだろう! そんな無茶苦茶に畳んだら皺が出来る!』 『え、何が駄目なのさ』 『その袖の折り方だ! 内側に入れる時はもっとこう、丁寧に折ってだな……。もういい、お前はタオルだけにしろ。衣類は俺が畳む』 『はいはい、全く注文が多いなぁ』 『何を言う。シャツが皺だらけだったら着る気がしないだろう』 『すっかり主婦だよね、ホント……って、C.C.? どうしたの凄い顔して』 『………………いつから此処は新婚夫婦の愛の新居になったんだ』 『何を馬鹿なことを……っ、てC.C.何だそれは!』 『そんなことも見て解らないのか』 『解っているから聞いているんだろう! 何でビデオカメラなんて持っているんだお前は!』 『しかも随分旧式のだね、それ』 『漁っていたら見つけた』 『百歩譲ってそれを使うのは良しとしよう。だが、何で俺達を映す必要がある!?』 『大丈夫だルルーシュ。お前は立派な主婦になれるぞ』 『阿呆か!』 『というかそれメモリ残ってるの?』 『多少な。だから少し撮らせろ。私はこれを使ったことがないんだ』 『だからといって俺達を撮る必要が……!』 『動かぬものを撮っても楽しいか?』 『………………』 『いいじゃないかルルーシュ。普段どおりにしていればいいんだよ』 『…………変なものは映すんじゃないぞ、いいな?』 『解った』 広々としたリビングのようなところだった。宮にしては小さめなその部屋は内装も控えめで心地よさそうに見える。ソファとラグとパソコン、テレビなどが適当に置かれている。どうやら他の部屋から持ち込んだものを一箇所に集めたようだ。中央に敷かれたラグの上では、場とは合わないラフな服装をしたルルーシュとスザクが洗濯物を畳んでいた。若干どころでなく違和感があるその光景にカレンが顔を引き攣らせた。 「…………ここ、離宮よね?」 「はい。私達の……でも、この光景は」 「一般家庭の風景よね……」 「…………一年前の、お兄様とスザクさんです」 ナナリーがぽつりと呟いた。 『大体C.C.、お前そんなものを撮っているなら少しは手伝ったらどうなんだ』 『私に服を畳めと? 散らかすのならば得意だが』 『俺がいなくなった後はどうする気だ。少しくらいやっておかないと後で困るぞ』 瞬間、映像がぶれた。恐らくC.C.の手が揺れたのだろう。画面の中のスザクも肩を一瞬震わせた。ルルーシュはそれに気付いているのかいないのか、ため息を軽くついて呆れたようにC.C.を――――つまり、こちらへと視線を向けた。 『シュナイゼルの計画さえ潰せば、あとは俺が死ぬだけだ。時間もないんだから学べるうちに学んでおけ』 『計画を変える気はないんだな?』 『ない』 きっぱりと自らが死ぬと言い切ったルルーシュに扇達が息を呑んだ。カレンや神楽耶は顔をくしゃりと歪め、ナナリーは膝に置いた手を震わせる。コーネリアが眉を痛ましげに寄せた。 『世界を変えるにはそれが一番有効な手段だ。シュナイゼルの創る世界は暴力で統治される強制的な平和だ。そこには恐怖しか存在しない。そんな世界を俺は認めない。それはナナリーが望んだ“優しい世界”じゃない』 優しい響きで呼ばれた自らの名前にナナリーは握り締めた手を口元へ運んだ。 叫びだしてしまいそうだった。 『ブリタニアの支配体制を壊す。そしてシュナイゼルの計画も壊す。世界を暴力と殺戮で支配し、全ての人々の憎しみを俺に集めるんだ。そして悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを黒の騎士団の総統で正義の味方、英雄ゼロが討ち果たす。……憎しみの連鎖を断ち切り、それで世界は武力ではなく会合による統一や平和を創り出すだろう。世界は変わる。変えられる』 『そこにいる枢木スザクがゼロとなって、か。世界を相手にどんな茶番を演じるつもりなんだお前は』 『言っただろう? この計画の名はゼロレクイエム。――――ゼロの鎮魂歌だ』 微笑むルルーシュの傍でスザクが僅かに顔を俯かせた。何処か噛み締めるような、そんな表情で。ルルーシュの視界には映らないそれにナナリーは視界が滲んでくるのを感じた。ああ、スザクさんあなたは。 『お前が死ぬのが大前提の計画なんだぞ?』 『そうだな』 『未練はないのか』 『ない』 再度言い切るルルーシュの瞳に揺らぎはなかった。覚悟を決めた者の目だった。そこに宿るのは諦観でも悲観でも後悔でもなかった。 光だった。世界の礎となって死ぬことを決めた者の目ではなかった。 その至高の紫はただ真っ直ぐ未来を、明日を見つめていた。 『もういいんだ。俺は、世界を変える。それでいい』 未来が無いと解っている。自分で作った計画なのに、成功してしまえばルルーシュに明日などないと解っているのに、彼は満足そうだった。笑っている。希望を失った顔でもなく。 優しい笑顔だった。 『……ナナリーが生きていたらどう思うんだろうな』 『そりゃ怒るだろう』 C.C.のため息混じりの声にあっさりとルルーシュは言う。スザクはほんの少し眉を潜めてから、彼も少し笑った。 『バレたら大変だから凄く神経使うね』 『それよりもルルーシュがほだされないか心配だな』 『何を言う。絶対にバレたりしないさ。お前達や計画を話す以外の人間には俺を恨んでもらわなければいけないんだから』 『カレン達にも、か』 『カレンや神楽耶は鋭いからな。絶対に気付かせてはいけない。きっと知ったら……カレンは泣くだろうから』 その言葉にとうとうカレンが崩れ落ちた。必死で嗚咽を堪えながらも空色の瞳は涙で濡れていた。それでも彼女は画面を見つめ続ける。 『あいつは優しいからな。きっと知ったら止めようとするし、知らなかったら邪魔してくるだろう。だからこちらも向かってくるなら容赦はしない。歯向かう者は皆こうなるのだと世界に知らしめなければ。……何より、俺を思ってくれる人は皆不幸になってしまうみたいだからな。だからカレンやミレイ、リヴァルには何も知らせない』 大切なものは、傍におかない。 『だから誰に言われようと、恨まれようと……たとえそれがナナリーであったとしても、俺は止まらない。憎まれてもいいから、俺は明日を創るんだ』 悲愴な決意だった。だけれどもルルーシュにとってはそれは悲しみではなかった。 希望だった。 「馬鹿よ、馬鹿よルルーシュ! ほんと、アンタ……!!」 気付きたかった。もっと早く気付いて、そして彼が死ぬ以外の方法を探したかった。 とうとう涙腺が決壊して、カレンはぼろぼろと涙を零した。ごめんなさい、ごめんなさい。優しいことなんて知ってたのに。信じきれなくてごめん。さよなら、なんて言いたくなかった。 神楽耶もセシルもニーナも皆静かに泣いていた。アーニャは無言でナナリーの傍に寄るとそっと膝に置かれた手を握り締めた。ナナリーの手は震えていた。アーニャの手も震えていた。 『人々にギアスをかけた代償としてか?』 『この力を手にしたことを後悔したことはない。だから代償というのは間違っているな』 フッと画面の中でルルーシュが美しく微笑んだ。それは皆が最後に見た、ゼロに刺される前のルルーシュの一瞬の微笑みと同じもので。 『撃っていいのは――――撃たれる覚悟のあるヤツだけだ』 『そうか。……ところでルルーシュ』 『……なんだ』 『盛大な演説をしてもらったのはいいのだが、畳み掛けのシャツとソックスを持っている状態で言われても画が悪いぞ』 『うるさい!』 ルルーシュが真っ赤になるのを見てスザクが笑った。 C.C.も笑っているようでルルーシュは憮然とした表情を浮かべる。そのまま機嫌が悪そうにルルーシュは黙々と洗濯物を畳みだす。C.C.はビデオカメラをテーブルか何かの上へと置いたらしく、画面に白が映る。すると一直線にルルーシュへ緑色が飛びついて、『ほわぁぁぁっ!?』と悲鳴が聞こえた。 『何をするんだC.C.っ! 重い! どけっ!』 『私だけ映像に入らないのもつまらん』 『だからといって抱きついてどうする!』 『あはは、ルルーシュお母さんみたい』 『阿呆か!』 『ん? 枢木、お前もしたいならしたらどうだ、スキンシップ』 『そう? じゃあ僕も!』 『ほわっ!? お前は重い! 離れろっ!』 ルルーシュの胸辺りにはC.C.が飛びつき、スザクは背中から抱きつく。その状況に盛大に眉を潜めたルルーシュが喧々囂々と怒声をあげるも全く二人は気にしない。暫くしてため息をつくと、ルルーシュは苦笑してからまた家事へと戻った。 その後一度映像が途切れると、今度はキッチンが映る。料理をしているルルーシュと手伝いをするC.C.を撮っているのはスザクのようだった。至って普通の、何でもない日常の映像。映像はくるくると切り替わる。本を読むルルーシュ。チェスをするスザクとC.C.。それを眺めるルルーシュ。チーズ君を抱えて昼寝をするC.C.をルルーシュが撮り、その横にスザクがいるらしく小声の会話が聞こえる。ただの友達のような、それ。映像を見ながら、いつしかナナリーの瞳からは涙が溢れ出していた。 「……おにい、さ、ま……」 未来へ生きているルルーシュがいた。ナナリーの知っている、優しい兄がそこにいた。 ずるい、卑怯だ。こんな優しいのに、兄は。ナナリーを置いていってしまった。 全ての十字架はルルーシュが背負って。彼はもういない。誰よりも愛していた人はもうこの世にはいないのだ。 「どうして、私は……信じられなかったの。どうして疑ったの……!」 兄の愛に勝るものなどナナリーにとっては無かったはずなのに。これが罰なのか。 もはや外聞も無く泣き出したナナリーを見て、皆の目にも微かに涙が浮かぶ。 「…………俺は馬鹿だった。愚かで、どうしようもなく馬鹿だった……!!」 「扇……」 「彼はまだ十八の子供だった! 何で俺達はそんなことにも気付かなかったんだ! 彼の才能とギアスという力を恐れて、憎んで、気付けなかった……。彼らはまだ子供だったんだ! ルルーシュは、枢木スザクは成人すらしていない子供だった。それなのに俺達は必要悪としてルルーシュに全てを押し付けて……。責任をとらなければいけないのは俺達もだ。その責任すら彼は持っていってしまった。子供を守るべきは、大人の役目だったのに」 まだ彼は若かった。彼にも明日が、未来があった。その未来を彼は世界に与え、そして自分だけはその世界を望まずに彼は死んだのだ。 扇は涙を流しながら床に膝をついた。懺悔するように床に手をつき肩を震わせる。支えるようにヴィレッタが扇の肩にそっと手を触れて、静かに涙を流した。 「ルルーシュ…やっぱりお前は、親友だぜ……っ!」 玉城も鼻を啜りながら涙した。南や杉山も顔を背けている。星刻は悼むように目を閉じ、コーネリアとギルフォードも沈痛そうに顔を歪めた。ロイドはただ画面を見つめ、ラクシャータもまた画面を見つめていた。ジノは何処か寂しげに苦笑を浮かべる。 「…………やっぱり、私は認めないよ。ルルーシュ先輩」 貴方はこんなに愛されているんだから。 「死ぬべきではなかったよ……」 ジノがルルーシュを倒そうとしていたのは事実だ。ルルーシュの創る世界を認めたくなかったのも事実だ。平和になった今が素晴らしいと思った。やはり彼はいてはいけなかったのだと、そう思っていたけれども。 「この世界があなたの望んだ世界なら、私は死ぬまで否定し続けるよ」 貴方がいなくなった世界は平和で優しくて、こんなに悲しいから。 「……どうか皆さん、忘れないでください。お兄様が世界を愛していたことを」 暫くして泣き止んだナナリーは皆へそう告げた。藤色の瞳が世界を映す。 「私は第100代ブリタニア皇帝になります。お兄様の創り上げた世界は私が守ります」 その言葉にコーネリアが口を開きかける。それをナナリーは手で制した。 「お姉さまは幸せになってください。愛する人と家庭を作り、子を産みそして私の次の皇帝として育ててもらいます。私はこの先一生結婚はしませんし、誰とも恋愛はしません。だから子供を産んでください。私はお兄様だけを愛して生きていきます。……きっとそんなことお兄様は望まれないでしょうけれど、でもそれが私の罰なのです。お兄様がいない明日を生きることが私への罰。お兄様の残された愛を、世界を守ることが私の義務であり願いです」 微笑みながら告げるナナリーにコーネリアは暫し黙ったあとに首肯した。その様子にナナリーも頭を下げる。 「……神楽耶様、あのお話お受けします」 「扇さん?」 「俺は、日本の首相となります。彼の願いを途絶えさせないために全力を尽くします。虫がいいだろうことは解っています。あんなに追い詰めていたのに、そんな俺が生きていいのか解らない。でも俺はいつだって一番トップに立ったことなどなかった。責任というものを本当に知ったことは無かった。……一番最初にゼロを受け入れたのは俺でした。だから俺は彼の願いを叶え続けます」 「……よろしくお願いしますね」 打診していた話を受諾した扇に神楽耶は微笑んだ。ロイドとラクシャータ、それにセシルとニーナが顔を見合わせ笑う。 「じゃあ僕らは科学かな」 「ラクシャータのサイバネティクスとナイトメアの神経伝動。世界にもっと広めるために尽力したいと思います。これからは人を殺すための技術ではなく、人を生かすための技術を」 「私はフレイヤを二度と作り出さないために、理論を放棄します。あれは残っていていいものじゃない。フレイヤの痕跡を世界から消しさったら、もう一度これからの生き方を考えます」 「私は学校に行くわ。あいつ、前に全部終ったら花火したいって言ってたから。生徒会立て直さなきゃね」 「……道場を開こうと思っている。精神を鍛えるための、道場だ。騎士団に私はもう必要ないからな」 それぞれに道が決まっていく。明日がある。明日を選ぶことが出来る。 道を決めていく周りを見つめながら、ゼロという仮面の下でスザクは泣くのを堪えて微笑んだ。 ルルーシュ、君の計画は少しだけ成功しなかったよ。 君が最期まで被り続けた仮面の真実に、皆気付いた。君の優しさに気付いて、そして世界を生きていこうとしている。君の望みを最期まで否定し続けて、それでも明日を生きていこうとしている。君の願いを叶えようとしている。 君の愛が、世界に明日を与えているよ。 残された真実は残酷で。 後悔ばかりが残るけれど、それでも皆前を見て生きようとしている。 ねぇ、ルルーシュ。 君は人々の願いという名のギアスにかかったけれど、世界もまた君の愛という名のギアスにかかったんだ。だから今の世界は君を生贄にして、平和を手に入れた。真実はここにいる人たちしか知らないことだけど。 本当は君がいない世界はとても寂しくて悲しい。でも。 世界は、愛にあふれているよ。 「ゼロ」 コーネリアが壁際に立ったままのゼロへと声をかけた。仮面がこちらを向いたのを確認してから、コーネリアは何処か試すような口調で喋る。 「礼の一つもあっていいんじゃないか? 本来ならあの時、お前がルルーシュは死んだと宣言するべきだった。だがお前は直ぐに声を発することはしなかった。いや、出来なかったんだろう。――――枢木スザク」 カレンやジノ達がハッとした。誰も言わなかった仮面の中身を彼女は突きつける。あの動きが出来るのは確かに彼一人だということを皆知っている。その上でどう反応するのか。コーネリアが鋭い視線を向けていると、仮面は肩を少し揺らして告げた。 「私はただの記号、“ゼロ”という名の英雄だ。それ以外の名はもたない。……だが、貴女に感謝はしている。ありがとう、コーネリア皇女」 「……それがお前の答えか」 仮面の返答にコーネリアはふっと満足したように微笑んだ。 ナナリーは窓から広がる空を見上げて淡く笑う。 ああ、お兄様。世界は今日も廻っています。あなたの残した愛で。 「結局、お前は愛に生きる男だったな」 くすりと少女は微笑む。また長い時間を彼女は一人で生きるのだ。だけれども、それは何処か悲しくて愛おしい。 時間はたっぷりあるのだ。ルルーシュの創った世界がどうなるかを見守りながら、また彼がいつか生まれてくるのを待ってもいい。きっと解る。そして今度こそ自分の願いを叶えてもらう。 どんなに叶ってもいい。だって私は、欲しかったものを手に入れた。 「王の力は人を孤独にする。だがお前は最期まで自我を保ちその力に抗い続け、願いを叶えた。信念を突き通したお前の心は理解され、愛された。お前に最期まで寄り添い続けたものは愛だったんだな。……なぁ、ルルーシュ」 この世界は、お前の愛で出来ているよ。
“それは、世界を愛し続けた物語” |