“”











































































 だからこれは恋だとシャーリーは定義する。

「……っ! シャー、リー」
「……ルル……だい、じょうぶ……?」

 そう言ってちょっと微笑んで見せれば、ルルーシュはくしゃりと顔を歪めた。
 そんな顔させたいわけじゃないのに。
 笑ってくれれば、それで。

「だい、じょうぶ、じゃないだろう……っ! 血が」
「だいじょうぶ。大丈夫だよ、ルル」

 そう、大丈夫。次第にこの痛みも消えるだろう。寒くなってきているのがその証拠。
 痺れるように手足の感覚が無くなっていく。その中で、唯一触れる腕の暖かさが全てだった。

「ルル、ルル。なかないで」

 本当は、彼は泣いてなどいない。けれど、わかる。
 彼は、泣いている。
 冷たい仮面の下で。『ルルーシュ』を隠す仮面の下の更にその下で、泣いている。
 本当は優しい人だから。
 優しすぎて優しすぎて、誰かを傷つけて自分が傷つくのも知りながら、それでも歩き続けなきゃいけなくなってしまった、人。
 かなしいくらい、不器用な。

「……ね、ルル。わたし、ね」

 ルルが、誰だったとしても、ずっと、大好きなトモダチだよ。

 そう告げれば目が見開いて。

「……あぁ。俺にとっても、大切なトモダチだ」

 微笑みが向けられる。
 その微笑みは、彼の妹に向けるもののような。
 優しい、愛しさが溢れた、微笑み。

 ずっとずっと、欲しかった、もの。


 ああ、これは恋だ。

 本当はぜんぶ、欲しかった。
 だから、てにいれる。手に入れられた。
 彼の心に入り込めた。
 少し視線を逸らせば、呆然としている白い騎士。手に握る剣から滴るのは、自分の、紅。

 その様子に、少し、笑う。

 あなたに、その役目は譲らない。
 彼の心を、全てを持っていくのは私。
 あなたに彼をあげたりなんてしない。ましてや命など。
 奪わせは、しない。

 ゆっくりと暗くなる視界の中で、唇が動く。

「もし、生まれ変わったら――――」


 やくそく。


 そして、恋は永遠の眠りについた。





「…………ルルーシュ」
 そっと聞こえた声に、腕の中にきつく抱いていた体を預けた。
 カレンが悼む表情を浮かべ、もう目を開けない少女を抱き上げる。
 それを背後で感じとりながら、ルルーシュは未だ呆然としているスザクへと目を向けた。
「…………これで、もう引き返せないな」
 開いた瞳の片方には赤い鳥が宿る。一瞬流れた涙にスザクがハッとするも、ルルーシュは何も無かったかのように振る舞った。
 浮かべられるのは能面に似た微笑み。
 初めての、“他人”に向ける、笑み。

「お前は“敵”だよ。枢木スザク」

 そして彼の世界は、白き騎士をとり残して、閉ざされた。