強がりな子供の守りかた。




「……ちょっと、ヘマしただけだ。だから、気にすんな」




 そう言って絶対こちらを見ようとしない相手にため息をつく。
 僅かに触れた手首は明らかに熱をもっていた。それなのにちょっと、だなんて馬鹿げているにも程がある。
 ましてや、数年来の付き合いである自分に嘘がつけると思っているのだろうか。
 そう思っているなら近々その考えを改めさせなくてはならない。
 つらつらと流れる思考の中、とりあえず今は目の前の天の邪鬼をどうするかに集中する。
 痛いと思っていても、絶対にそんなことは言わないだろう。きっと自分がいなくなったあとでやっと手当てをし始めるのだ。
 捻っているのは解りきっているのだから、治療は早めが一番だと解っているはずなのに。
 素直じゃない態度にため息をついて、ベッドに座る相手を強引にこちらに向けさせた。小さな悲鳴があがるも無視して腕を掴む。
 制止の声も綺麗さっぱり聞き流して袖を捲りあげた。

「……これが“ちょっと”だとあなたは言うわけね?」
「…………」

 相手は何も言わない。
 人工の光に晒された患部は赤く腫れてきている。早く冷やさないと今夜は痛みで魘されることになるだろう。
 ばつが悪そうに目を逸らす相手に再度ため息をついて湿布と氷を取り出した。


「まったく。無茶しないでちょうだい。庇ってもらったのにはお礼を言うけれど、痩せ我慢なんてしてほしくないわ」
「別に、痩せ我慢なんか……」
「なら、痛いときは痛いって言ってちょうだい。言わなくちゃ解らないことはたくさんあるのよ」


 本当は解っている。
 自分を庇って受けた傷を目にさせたくないこと。
 それを手当てする自分が気にすることを知っているからこそ、隠すのだ。
 けれどそれでは困るのだ。自分は、彼の恋人のように顔を見ただけで察する能力などもっていない。
 もちろんそれは何人か限定なのだろうけれど、人と触れあうことが少なかった自分には難しい。
 それが、自分を守ろうとする行動ならば、なおさら。

 強がりじゃなくて、不器用なだけだなんて、とっくに知っている。
 そんなところが、好きだと思う。

 悔しいから絶対言ってなんてやらないけれど。


 小さく笑みを漏らしてから手当てにとりかかる。

 とりあえずはこの場を救う救世主があらわれるまで、意地っ張りな子供にどういいきかせようか。



『守ってくれてありがとう。でも、守らせてほしい時もあるから』と。







“背中を預けてはくれないだろうけれど、手を差しのべるくらいはしてもいいでしょう?”