いきなりの雨だった。
 小雨なんて可愛らしいものではなく、大粒のどしゃぶり。
 慌てて近くの喫茶店の軒に駆け込んで、一息ついて横を見ると――思いもよらない人物が、そこにいた。


「……ったく、いきなり降ってくんなよな……」
「…………」



 なんたる偶然。
 そこにいたのは名探偵、工藤新一。



「……めーたんてー……」
「え?…………って、テメェ何でこんなとこいんだよ」


 思わず呟いてしまった言葉に、こちらを向いた探偵の眉が潜められる。
 まだ何も言っていないのに、どうやら自分の正体はバレバレらしい。さすが名探偵……ではなくて。


「あらら、おわかりで?」
「お前の気配解り易すぎなんだよ」
「そんなこと言うのお前だけだって」


 気配なんて当然のごとく変えてる筈。と、いうかほぼ素の状態なのだ。気付ける方が可笑しい。
 それなのに探偵は、未だ止みそうもない雨を見やってため息をつく。
「今日天気予報雨なんて言ってなかっただろー……」
「まぁ通り雨みたいなもんでしょ」
「止めさせらんねぇの?」
「いやいや人間に出来るかよンなこと」
「出来ねぇのか」
「アタリマエだっつーの! アンタ俺のこと何だと思ってんだよ!」
「地球外生命体で人外魔境な一人特撮男」
「…………一人特撮って……」
「オメーがいれば戦隊ものとかスタントマン無しで簡単に出来るだろ」
「あっそう……」
 仮にも、世界の大怪盗を捉まえてここまで言ってのける人物はいないだろう。
 全く、アンタこそ地球外生命体だよと心から言ってやりたいものだ。
 そこまで言うとまた探偵の目線は雨に戻る。そのまま少しもこちらを見ないのが何となくつまらなくて声をかけた。

「……ねー名探偵。」
「なんだよ。」
「俺とお茶しない?」
「は?」

 軽い調子で背後の喫茶店を指差しながら問い掛けてみると、直ぐにこちらを向いて目を瞬かせた。
 普段見ないその表情が可愛らしい。

「…………ナンパか?」
「そのつもりだけど」
「探偵をナンパする怪盗が何処にいるんだよ」
「ここに一人」
「……ヘタなナンパだな」
「直球ストレートで行かないと、名探偵解らなさそうだし」


 呆れたようにため息をつく、そんな仕草も普段見ないもの。
 少し嬉しくなって笑みを浮かべていたら、探偵は再度深々とため息をついて片眉を下げ淡く微笑んだ。



「……お前の奢りで、退屈させないんだったら付き合ってやってもいいぜ?」
「コーヒー一杯くらいなら全然OK。退屈なんてさせないぐらい楽しませてやるよ」
「喫茶店でどう楽しませるっつーんだよ、ばぁか」
「それはこの巧みな話術で」
「言ってろ」



 口は悪いのに、探偵は綺麗に笑って俺の開けた扉をくぐった。

 その笑みに、男だというのに見惚れてしまったのは、探偵にはナイショ。





“偶然だって、運命に変えて君のもとに行くよ。”