貰って貰われて 「…………で?」 「で、って?」 「…………この状況は何だ、黒羽?」 背に感じるのはキチンと皺一つなく敷かれたシーツ。 その上に押し倒された自分の上には、楽しげに笑う男が一人。 「何って……今日は工藤の日でしょ? だから“俺”をプレゼントしようかと」 「俺の日?」 「そ。九月十日で“910”の日、工藤の日でしょ?」 「…………アホか」 返された突拍子もない言葉に呆れる。 何なんだソレは。 大体“工藤”の日なら全国の工藤さんも当てはまるだろうが。俺だけじゃないだろう。 そう口にすれば、男は――――黒羽は酷く甘やかな、自分が弱い微笑みを浮かべた。 そっと、頬に触れる指。 魔法を生み出す、繊細な手。 深い夜空の藍色が自分を映す。 愛しさが溢れて止まらない、とどこか掠れた声で囁く。 「だって俺の中の“工藤”はたった一人だけだから」 それは理由になってないと、ぼんやりしてきた頭の隅で思うけれど。 けれど、湧き上がる感情に押し流されていく。 だってどんなにクダラナクても、それでも……そう思ってくれることが、たまらなく幸せに思えてしまうのだから。 けれど、今日はそんなんじゃ足りない。 もっともっと欲しいものが、ある。 「…………だったら、全部寄越せよ」 “お前”がプレゼントとだと言うのなら。 全部渡しやがれ。 昼のお前も……夜を駆ける、白い鳥のお前も。 全部寄越せ。 そう言えば、彼は目を見開き心底驚いた顔をして――――力強く、自分を抱きしめた。 「……うん。全部、貰ってくれる?」 「返せって言っても返さねぇよ」 「言わないよ。絶対、言わないから……」 「だったら早く寄越しやがれ。…………代わりに」 “新一”をくれてやるよ。 「……し、ん、いち……」 「何だよ、“快斗”」 「……あいしてる。愛してるよ――――」 知ってるよ、と。 返せば、泣きそうな顔で笑って出来たばかりの恋人はそっと唇を重ねた。 |