君に贈ろう  ハジマリの言葉  祝福と感謝とほんの少しの願いを込めて






「…………ありえねぇ」


 自分を見て、ぽつりとただ一言零された言葉に思わず苦笑した。
 そんなことを言われる自覚はあるのだけれども。
 放課後の帝丹高校校門前に、自分とそっくりの男が立っていればそりゃびっくりもするだろう。まぁ彼としてはそんなことはどうでもよく、ただ『夜』の顔ではない自分がいるだけで相当な衝撃なのだろうが。正体について何も無いのは、今更というか何と言うか。

「やだなぁめーたんてー。いきなりそれはちょっと酷くない?」
「むしろいきなりいるオメーのほうが酷いだろうが! うわ有り得ねぇ! 何だこの状況!」

 人を指差すのはいけないんだよー? と言ってみても、相手は全く聞く耳を持たずにうるせぇ! と怒鳴り返してくる。周りの目を気にすることなく喋ってくれるのは嬉しいのだが、もう少し優しくしてくれてもバチは当たらないだろう、たぶん。
 つれない様子にしくしくと泣き真似をすれば蹴られる。痛い。

「痛いです女王様……」
「誰が女王だ!」
「ぴったりじゃん。命令するの得意だし、足グセ悪いし」
「……ほほぅ。つまりテメーはそんなに俺の手加減なしの蹴りを食らいたいわけだな?」
「すみません調子乗りすぎましただからお願いそれはやめてマジで死ぬから!」
「ったく……で、一体何しに来たんだよ。喧嘩なら買うぞ。五倍返しだけどな」
「違うって! せっかくだからお祝いしにきたの。はい、どーぞ」

 じろりと睨み付けてくる相手に首を必死に振って弁解する。
 訝かしげな視線にニッコリと笑みを向けると、パチンと指を鳴らして青薔薇を一本差し出した。

「……お前やっぱ喧嘩売りに来たんじゃねぇか……」
「違うってば! 本当に違うの! ……“不可能”を“可能”にしちゃった人に贈るならぴったりでしょ?」
「……!……」

 そう。
 全部やり遂げてこの日常に帰ってきた君へはこの薔薇がふさわしい。
 青い薔薇は今までこの世には無かった。だから花言葉は“不可能”だった。
 けれど、青薔薇は生まれた。そしてまた彼も不可能をひっくり返してみせた。
 だから今の彼に一番ふさわしいと思ったのだ。

 彼は驚いたように目を見張ってから眉を寄せると、ほんの少し不機嫌そうな表情を浮かべつつも薔薇を受け取ってくれた。
 不機嫌なのは照れ隠しだと知っているから嬉しくて笑うと、頭を小突かれる。ちょっと痛い。
 でも、うれしい。



「本当におめでとう、名探偵。心から貴方を祝福します」



「……まぁ、な。……次はお前の番だろ?」
「……そう、ですね」
「……オイ」
「ん?」
「腹減った。何かおごれ」
「別にいいけど……って、まさか食べてないわけお昼!?」
「二時間目に呼び出しくらってなー」
「ちゃんと食べなよ……で、なにがいいの?」
「マックだろーがサイゼだろーが気にしない」
「何でそんな安いとこばっかなの……」
「だってあんなバカスカ花火あげたりなんだりしてりゃー金なんてほとんど……」
「あります! つーか、そういう裏舞台のことを気にしないでよ!」
「だってそーだろ? いっつもオメーのやることは派手じゃねーか」
「それ言ったらそっちだって……!」




 他愛ない話が楽しくて。
 まだ名前も名乗っていないのに、解ってくれている君が嬉しい。


 あぁ、本当は。
 ずっとこうしたかったんだ。






“お帰りなさい、日常へ。初めまして、新しい日々。そしていつかの未来を夢見る”