「………………何、コレ………」



思わずそんな言葉が口をついて出てしまったのは仕方ないと思う。…………たぶん。




【日が落ちて夜が来たら】




「それを聞くために呼び出したんだろうが。見覚えあったりしないか? その財布」
「生憎ながらさっぱり。?マーク一つに親愛なる優作工藤……怪盗1412号。たぶん新ちゃんの考えている通り、コレ作ったのは間違いなく親父だろうけど。」
 放課後のファーストフード店や、レストランには学生達が溢れている。
 現在コナンと快斗がいる店も例外ではなく、店内のテーブルはほぼ満席状態だった。
 その中で四人席をゲットできたのは幸運だったのだろう。あまり他人には聞かれたくない話ではあったし。
 とはいえ隣のテーブルとは離れていて、角席なうえに店内は騒がしかったからそうそう聞かれる心配もなかったのだが。
 向かい合わせに席に座りとりあえず簡単に注文を済ませる。と、早速とばかりにコナンは学校で見つけた財布を快斗へと突きつけた。
 電話一本で呼び出されたものの、理由も何も知らされていなかった快斗は目を点にするしかない。
 何せ電話がきて、


回想スタート→


《チャララララ、チャチャチャララ、チャチャチャチャラーラーララーララララ》


「? 快斗、携帯鳴って……」
「はーいもしもしコナンちゃんどうしたのーっ?」
「……はや……」
 着メロが鳴り出して僅か三秒。瞬時に取り出して自分の耳に押し当てた快斗を呆れた目で青子は見つめた。
 しかも彼女は知っている。その着メロが誰専用かもしっかりと。
 他の人間は(自分含め)一つの音にしかしていないのに、今電話している彼……江戸川コナンの着信音だけはしっかりばっちり設定されているのだ。
 電話どころかメールの着信音まで変えており、尚且つ何時撮ったのかも解らないような可愛らしい写真が画像にも設定されていたりしているのも知っている。
 いつかその事をコナンにバラしてやろうと密かに考えていたりもするが、とにもかくにも今は電話の内容が気になる。
 とりあえず青子は思考を中断させて快斗の声に集中した。
「へ? 今日の放課後? 全然オッケー! コナンちゃんの為なら、例え一億円あげるって言われても時間空けちゃうよん♪」
 デートのお誘いー?と鼻の下をでれでれと伸ばしながら喋る姿はひっじょーに不気味だ。
 僅かに机を遠ざける周りにも構わず、快斗は立ち上がるとごそごそと帰り支度を始める。
「んじゃ今からそっち行くねー? ………え? あぁ大丈夫大丈夫、俺頭良いから!」
 あははーと軽く笑いながら二言三言言葉を交わすと、まだ喋っている相手の言葉を聞かずに(『ちょ、てめっ快斗人の話は最後まで聞』)電話を切る。
 そして鞄を手に持つと…………がらりと、窓を開けた。
「んじゃセンセー、俺愛の為に早退シマス。また明日ねーVv」
「コラ黒羽!! まだ授業は終わってないぞっ!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ、俺そこ完璧。じゃねー」
 ひらひらと笑いながら手を振ると、慌てる教師を尻目に快斗はひょいっとそこから下へ飛び降りた。(注:三階)
 そして華麗に着地すると(10.0!!)すたこらさっさと校門を出て行ったのだった。


 →回想終了。

 ――――と、はちゃめちゃな行動を起こして帝丹小まで迎えに来たのだから。

 ………話に戻ろう。

 差し出された財布は何故か引きちぎってあって、それを疑問に思ったものの開いて見れば一発で納得した。
 書かれている文字を読み取れば、何故彼が自分を呼び出したのか解る。解ったとはいえそのあまりにあまりにもな内容に固まってしまったのは許して欲しい。
 固まっているを半ば無視する形で快斗に説明し、コナンは運ばれてきたコーヒーを飲んでため息を一つついた。
「…………まぁ、あの時の盗一さんの言葉の意味は解ったけどな。KIDってつけたのは父さんだから、それよりも前に名付けられた俺の方が確かに兄っちゃ兄だし。」
「………何か父さんズルイ。そんな可愛い頃の新一と会ってたなんて」
「バーロ、今の状況と大して変わんねーよ見かけなんて。同じ小1の時の話だし」
「………そりゃそうだけど…………って。……アレ?」
「? どうした?」
「…………小1だよ、ね?」
「そうだ」
「……………………あー……………………意味、解ったかも」
「え!? マジで!?」
「うん。多分…………それ、父さんからだ」
「…………いや、そりゃ解ってるっーの」
「違うよ、そうじゃなくて…………」
 記憶を探ってみれば、一つ引っかかる出来事があったのを思い出す。
 確かあれは有希子と会うのに連れて行かれた時のこと。


 封筒から出てきた!マーク。
 それを瞬時に当てて見せた父親。
 楽しげに笑う横顔。


 あの時のことを説明してみれば、コナンはひくひくと顔を思い切り引きつらせた。

「………………っつーことはアレか。父さんは盗一さんがKIDだって知ってたってことかよ……」
「だろうね……そうでなきゃこの財布見る前にそんな返事書ける訳ないし。やっぱ凄いねぇ、親世代は」
「俺はムカつくがな……」

 知っていて捕まえなかったということは、恐らく理由か何かを知っていたということで。
 ついでに今キッドをやっているのが息子の快斗だというのも多分気付いていて。


 …………………ヘタをしたらこの状況さえ気付かれていそうな予感がする。


「あんのクソ親父…………!!」
「まぁまぁ落ち着いてよ新ちゃん」
「落ち着いてられっか! ………親子二代でこんなこと繰り返してんのかよ……ったく」
「うーん、ちょっと違うんじゃない?」
「?」
「父さんと優作さんは多分好敵手でライバルで似たもの同士って感じなんだろうけど……」



 “俺達”は違うでしょ?



 『ライバル』

 『好敵手』

 『似たもの同士』


 確かにソレも当てはまるだろうけど。
 でも、自分達はそれだけじゃなくて。


 『親友』で。


 一番お互いを理解できる、支えあえる『コンビ』で。


 …………『この世で一番、大切な人』


 『愛しい』人。


 …………『恋人』同士。



「…………ね?違うでしょ?」


 やけに最後の言葉に力を込めてにこにこ顔で問いかけてくる。
 ねーっ?と首を軽く傾げ、肯定して欲しそうに見つめてくる顔を見返し、ぽんぽんと頭を叩いた。
 その行動にきょとんと目を瞬かせたものの、何も言わない自分に不満そうに唇を尖らせて快斗は眉を潜める。
 そんな顔をふっと笑って悪戯っぽく瞳を輝かせると少し顔を近付かせた。

 楽しげに。
 “コナン”を知る者でも、“新一”を知る者でも驚くような。

 そんな優しく、楽しそうな、甘やかな顔で。

 そっと囁く。



「……………………も一つ、付け足しておけ」
「へ?」
「俺達は」





 “最強無敵の『パートナー』、だろ?”





 アイのコトバを囁く。



 コナンの言葉に酷く驚いたように、口をぱかりと快斗は開ける。
 それから脳に伝わった言葉を半濁して。


 幸せそうに、微笑んだ。







 「……………………私から見れば最強のばかっぷるよ。」


 その話を、後日快斗に話された灰原女史は馬鹿らしいと言いたげな顔でそう呟いたという。






“最恐の女帝は糖分過剰摂取中”