Romantic Blue Honey # Information

「大晦日とお正月の予定？　特にすることもないから家にいるだろうけれど……」
「じゃ、じゃあね？　その……私のお家で、年越ししないかな？」
「……え？」
　彼女からの思いがけないお誘いに――私が胸中で狂喜乱舞したのは、言うまでもない。

「こんばんは……お邪魔します」
「おーほむらちゃんいらっしゃい」
「いらっしゃい。寒かったでしょう？　上がって上がって」
「ほむらー！」
「えへへ、いらっしゃいほむらちゃん！」
　玄関で軽く腰を折り挨拶をする。一家総出でのお出迎えに少々緊張するけれども、別に初めてなわけじゃない。幾度も遊びにも泊りにも来たことはある。けれど、こんなふうに『家族の団欒』にお邪魔させてもらうのは初めてだった。
「荷物持とうか？」
「大丈夫よ。大した重さでもないし」
　まどかが手提げを持とうとするのを止める。風呂は先に済ませてきたし、衣類と洗顔用具ぐらないなのだから。
「そう？　じゃあ私の部屋行って荷物置いて、それからリビング行こっか！」
「ほむらちゃん、何か飲むかい？　寒かったろうから何か温かいものでも……」
「……じゃあ紅茶を頂けますか？」
「オッケー。まどかも飲むだろ？」
「うん！　わーい珍しくママが淹れてくれるの？」
「たまにはね。じゃあさっさと置いてきな」
「はーい！」
　元気なまどかの返事と共に二階に上がり、まどかの部屋に入る。部屋には既にベッドの横に布団が一組敷かれていて、その傍に手提げを置いた。
「じゃあ下いこっか？」
「ええ。……でもその前に、まどか」
「え？」
　部屋を出ようとするまどかを手招きする。扉が閉まって無防備に近づいてきたまどかを、引き寄せて抱きしめた。
「ふぇっ！？　ほ、ほむらちゃ……」
「いい匂い……まどかもお風呂入って出てきたところだった？」
「う、うん……そしたら寝るまでずーっとほむらちゃんと一緒にいられるなぁって思って……ママとかたつや、ほむらちゃんのこと気にいってるから油断するととられちゃうんだもの！」
　そう言って自分からもギュッと抱きついてくるまどかが可愛い。
　付き合い始めの頃は少し触れただけでも真っ赤だったのに、今では自分からもたまに抱き着いてくれる。それを嬉しく思う。
「ふふ、心配しなくても私はまどかのものよ？」
「……私も、ほむらちゃんのものだよ」
　そんなのことを上目使いに言われると……凄く困る。
「…………まどか、ちょっとだけ……」
「え？　え、ほむらちゃん？　目が……あ、ちょっ、ま」
　ちょうどいいところに布団も敷いてあることだし。
　少しだけ、まどかを堪能させてもらうことにした。

「――――誕生日パーティー？」
「そ！　あんたが無事に進級できたお祝いも兼ねてね。この鈴木園子様がどーんっ！　と盛大なパーティーを開いてやろうじゃないの！」
　登校してきて開口一番、挨拶よりも早く告げられた言葉に新一は呆れたように溜息をついた。「おはよう」というたった四文字の言葉よりも先というのは少々頂けないだろう。
　と、いうかそれは新一のためのお祝いではないのだろうか。……新一の目には、楽しみにしているのは園子自身のように見えるのだけれど。
「お前が、俺の誕生日パーティーを？」
「そうよ！」
「俺も出資するのか？」
「アンタは主役だから免除してあげるわ。別に他の子からも貰うつもりはないけど」
「……来るのは？」
「うちのクラスのメンバーとアンタが呼びたい人、それからアンタの旦那とその友達もよかったらどうぞ！　ってところかしら」
「……お前アイツの連れてくるダチが目当てなんじゃねぇのか？」
「だって江古田の男の子達ってレベル高いの結構いんのよ!?　気になるじゃない！」
「あっさり肯定するなっての……」
　あからさまに友人の誕生日をダシにしようとする園子に、新一は深くため息をついて蘭は苦笑した。
　見れば周りも少しそわそわしてこちらを伺っている。この分だと他の男子や女子も、他校の男女目当てなのだろう。
　俺の誕生日パーティーは合コン会場か、とごちながら新一は少し頬を掻くと肩を竦めてみせた。
「――――燃え上ってる中悪ぃけど、誕生日前日から予定があんだよ。やるんだったら俺抜きでやってくれ」
「はぁぁぁぁぁぁっ!?」
　愕然とした表情を浮かべて園子が叫ぶ。当然だ、主役がいないパーティーなど何の意味もない。
「アンタがいなかったら、そんなのやっても意味ないでしょ！　大体予定って何の……ああ、アンタもしかして黒羽君とお泊りデートでもするの？　大丈夫よ。四日の昼から夕方くらいまでだけ付き合ってくれれば」
　誕生日にデート、なんて一般的な考えもこの大馬鹿推理ノ介の手にかかれば考えもしなかったが、件の旦那――黒羽快斗が企画しているというなら話は別だ。この友人に聞くよりも先にそちらへコンタクトを取らねばならない。
　しかし新一はあっさりと首を振ってみせた。お泊り、はスルーしたらしい。心なしか顔が赤いのだけれども。
「ちげーよ。確かに快斗は祝う気満々だけど、それもまだどうなるか未定だ。……俺のほうが何時に終わるか解らないからな」
「何時に終わるって……何があんのよ」
「何がって……あ、そうか。正式な報道は昼からだったか」
「？」
　不思議そうに首を傾げる園子に、新一はくすりと笑って鞄からカードサイズの紙を取り出した。それを彼女へ渡すと、園子は紙を見て驚いたように声をあげる。
「ええっ、うそぉっ!?」
「うそじゃねぇよ」
「園子、それ何なの？」
「キッドよ！　キッド様からの予告状よ！」
　不思議そうに覗き込んできた蘭に、園子は興奮で上擦った声をあげた。

　始まりは何時だったか。
　それは今日も今日とて目下開店休業、閑古鳥の鳴く万事屋にとある人物がやってきたことによる。
「たのもー」
　なんだか道場の討ち入りのような声をあげやってきた客人に、いつもの如く雇い主は「新八いけ」「行くアルよ眼鏡」「言われなくても行きますよ、てか何で眼鏡ェェェェ!?」と、命令しつつ優雅に長椅子でジャンプを読みふけっていた。
　昼下がりのダレきった(ここは何時でもダレているが)時間にやってくる者など、どうせ新聞の勧誘か訪問販売の人間だろう。
　いちいちそんな輩を相手するのは面倒極まりないと数秒後には客人も忘れてページを捲っていた銀時の耳に、ガラリという音のあと素っ頓狂な悲鳴が轟いた。
「ええええええええええええええええええええ!?」
「あァ？　なんだようるせェな」
「私見てくるネ」
　好奇心からか同じく向かいで寝そべっていた神楽が起き上がり玄関へと駆けて行く。銀時も身を起こして頭をボリボリと掻くと廊下の向こうへ目を向けたが――じわりと漂ってきた殺気に目を瞠って立ち上がった。
「どーした？」
　ゆらりゆらりと体を揺らせて玄関へとやってくれば、そこに居た人物に銀時は目を瞬かせた。珍しい、というかどうしてこの人物がこんなところに。
　殺気をダダ漏れにして全身で威嚇する神楽と硬直している新八の頭をぽんぽん、と撫でてやると銀時はその人物と対峙した。
「ええと……どうもオヒサシブリ？」
「久しぶりでござる、白夜叉」
　胡散臭いサングラスにヘッドホン、三味線を背負い何故か両手で白く薄い箱を持ったその男は―――忘れもしない。真撰組が窮地に陥り内乱を起こすきっかけを作りだした人物、その手引きをした河上万斎であった。